[ 2020.11.1. ]
280号-2020.11.25
管理物件にお住まいのお客様よりお受けする入居中のトラブルや設備の故障に関する受付窓口への問い合わせ件数は管理戸数に応じて増加し、しかも複雑になる。当社の受付窓口への問い合わせ、いわゆるクレームは、月平均450件ある。管理戸数からの比率で言えば7.6%にもなる。100世帯中8件弱が何かしら言ってくる事になる。因みに、「クレーム」というとやっかいな「苦情」のように受け止められるので、当社では「CS」(Customer Service・Customer Support)と呼びならわしている。
その「CS」だが、設備機器46.2%、共用部分10.8%、騒音3.8%、駐車関係2.4%、室内修繕12.6%が主要なものだ。内、入居時の居室内の設備不備に関するものが7.4%もある。弊社では入居時に室内点検や設備の不具合を確認してもらっている。新築なら「設備の使用方法がわからない」「うまく作動しない」とかの初歩的な問題から戸の開閉、床なりなどの不具合もある。中古、新築を問わず、設備の「CS」は修復調整で殆ど済むが、たまに新品との交換もある。これらの「CS」は単純化すれば費用と時間の問題に尽きる。時間の経過とともに解決策は遠のき、関連費用も増加する。当社としては「CS」件数が、管理戸数に比例するという常識を覆したい。社長方針としても「CS」件数の削減を取り上げている。内容の分析から始まり初期対応を重視する。川上で防がないと川下では負担が倍加するからだ。
その為には物件案内時、申込時、契約時、重要事項説明時に様々なツールを使いプラス情報だけでなく、マイナス情報をもきちんと説明し納得させることだ。
状況がこじれるのは往々にしてマイナス情報をキチンと開示しないことに起因している事が多い。勿論その説明の仕方の拙劣さが入居に影響するので、常日頃からの接客ロールプレイングが欠かせない。
法的には「受忍限度」という概念があるが、日常生活に即応した具体性に基づかなくてはいけない。「お互い様」という寛容の精神と「不具合がなく100%完全な物件などない」という事を認識させる事が必要なのだ。
しかし、この点を取り違えると大変なことになる。賃料と品質のバランスだ。その人の人間性もあるが、一般的に賃料の水準が高い入居者ほどその要求レベルは高く見がちだが、当の入居者からすれば全く関係がない。高い賃料の入居者だからとか、低賃料の入居者だからだとかで対応すると、とんでもないしっぺ返しを食う事になる。「住まいの環境を提供する」という観点からは違いがない。ところが往々にして担当者も「この賃料だから」とかで、扱いがぞんざいになることも多い。基本的な連絡を怠ったり、優先順位を変えたりすることに気を付けることだ。特に分譲マンションからアパートに移転する場合や、戸建てから集合住宅に移転する場合などは要注意だ。
緊急事態宣言以降、新型コロナウイルスの影響で在宅勤務が増えたことも原因の一つにある。在宅で一日中いるわけで、今迄大して気にもかけなかった周囲の雑音や家庭内の雑用手伝い、子供の面倒がストレスに拍車をかける。しかも在宅といえども仕事をする環境が整っているケースは少ないから猶更だ。
コロナには直接関係がないがこんな事例があった。「追い焚きができなくて風呂に入れない」という「CS」だ。
当該物件は分譲仕様なので給湯式ながらユニットバス自体普及品ではなく受注生産品であった。受注生産品という特殊事情を加味しても、工事期間も含めて結果的に2ケ月を要してしまった。
その間中、入居者は銭湯に行くことになり、大変な迷惑をおかけしたはずだが、後日、その期間中、入居者は実家を仮住居とし近くの温泉施設に毎日行ったとの話が出てきた。結果、損害として「実家の宿泊費用、温泉の使用料、交通費を15万円支払え!」という事になった。当社としても入浴できない実費負担として数万円を考えていたが、金額の乖離に善後策を協議することになった。入居者と何度かの打ち合わせ機会を持ったが平行線に終わった。
旧民法の「賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは、賃借人は、その滅失した部分の割合に応じて、賃料の減額を請求することができる」を判例学説で「一部滅失による賃料減額条項」として使用収益まで含めて運用されていた。2020年度からの改正民法では、「賃料はその使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて減額される」と当然に賃料の減額が認められることになった。理論上明確であるが実際の現場では対応に困るケースがあり、我々の所属する「財団法人 日本賃貸住宅管理協会」では「貸室設備等の不具合による賃料減額ガイドライン」を作成した。ガイドラインに沿えば、「風呂が使えない」場合免責日数3日、賃料減額割合10%という事になる。本件の場合は、(月額賃料10万×2ケ月÷60日×0.1)×(60日-3日)=約19,000円になる。勿論、これで済むわけではないし、風呂代や交通費、精神的苦痛の代償も含める必要があるだろう。これらを加味しても5万円が妥当なところだと考えていたが、入居者が滞納もなく優良入居者だったこともあり、貸主の意向も考慮し相手の請求通り15万円を支払う事になった。当社の過失も逃れられないので全額当社負担で終わり、いい教訓になった。2020年度からはこのような設備の不具合による「CS」は、明文化されたこともあり入居者側からは当然の要求として出される可能性がある。管理会社に求められる対応策としては、迅速な設備修繕、スケジュールの明確化と工程管理、適宜な代替え策の提案がある。今までのような協力会社や第三者に一任という安易な姿勢では入居者、貸主からは納得を得られないだろう。協力会社の教育も含めた品質確保と納期の順守が必要なのだ。つまり、不動産屋ではなく建築会社の感覚で元請け責任が必要になる。
3月4月は新型コロナウイルスによる工事遅延も問題になっていた。マスコミ等による既報の通り住宅設備製品の納入が遅れているからだ。「買占めパニック型」と言われ、TOTOやLIXIL、パナソニック等の日系メーカーが販売する日本製トイレでも「ウォシュレット」や「シャワートイレ」と呼ばれる温水洗浄便座の部品や、便器を取り巻くパイプや金具等には中国製が含まれるので、その不足で完工しないのだ。
事の発端は、先々の供給逼迫を先読みした卸が「在庫を確保しようと一番人気であるTOTOのトイレを大量発注したことにあるといわれている。大量発注のうわさを聞き付けた他の卸や工務店、住宅メーカーなどは、在庫確保に一斉に追従し、TOTO製に始まった奪い合いがLIXIL製、パナソニック製へと発展した。しかも買占め騒ぎとは別に、中国製部品のトイレメーカーへの納品は「陸送や海送が滞っている為」この騒ぎ前から遅れていた。しかも納品時の欠品が多くトイレメーカーとすれば大量発注とサプライヤーからの部品納品遅れのダブルパンチになった。この大手三社は新規受注を停止せざるを得なくなり、余計在庫払拭の懸念が拡大する事にもなった。関連する建材までもおよび工事遅延は運送業界の人手不足と重なり深刻な問題となった。この余波はマスク、トイレットペーパー、アルコール消毒液まで広がり、1973年10月石油ショック時のトイレットペーパー騒ぎの再来を見るパニックになった。
これも同じくマスメディアの報道や流言飛語が契機となり、集団心理となって買占め行動に走ったものである。現在は落ち着いてきたが、コロナウイルスの第2波が来れば同様な事態が起こらないとは限らない。
入居者に対しては、交換が必要な場合でも「一部減損による家賃減額の免責期間が適用できるのか?」が現実問題として浮上してきた。一応「CS」受付時に工事の遅延を話し、了解を得るようにしているが、給湯、トイレ等の水回りについては問題が残る。原則家賃減額に応じる必要があるという弁護士の意見もあり、特約で「やむを得ない事由により~賃料が減額されない」という条項を入れても消費者契約法により無効になる可能性があるとの判断がされている。管理会社として頭の痛い問題が一つ増えたことになった。
社長 三戸部 啓之