[ 2023.8.1. ]
313号-2023. 8
今年の新卒採用は 1 名だった。ここ数年 5-9 名を採用していたので、社内でも驚きの目をもって見られた。理由は簡単だ。応募者自体が 3 名と少なかったこと、例年と同じ採用ルートで臨んだこと、面接の仕方を変えたからだ。
例年の新卒応募ルートは、前年のインターンシップ生から 1-2 名、提携先の大学の学内説明会から 5-8 名、神奈川県中小企業家同友会の合同企業説明会から 2-3 名、採用媒体誌から 2-4 名、大学の後輩関係から 1-2 名、計 11-19 名が応募者総数になる。その中から書類選考で 1-2 名が落ち、残余が面接に進む。
面接は常識テスト、質問書、適性テストを実施し、総務と会長の面接になり合否を判定する。基本的に事務系は一次面接で決定するが、営業系の場合は営業責任者の第二次面接、他の役員の第三次面接がある。時期的にも当初から当社を第一志望として応募してくるのは、過去のインターンシップ生が殆んどだ。それゆえ当社の採用スケジュールも第二志望、第三志望者がメインになり、大手有名企業の採用が終了した 7 月、公務員試験が終わった 10 月が山場になる。
昨年の応募はインターンシップ生から 2 名、神奈川県中小企業家同友会経由の学内説明会から 1 名の計 3 名と少なかったが、新卒よりも即戦力としての社員が緊急に欲しいとのことで敢えて新卒の採用活動はあまり積極的ではなかった事が大きい。結果的に新卒採用 1 名、中途採用 4 名となった。
面接にしても昨年は、現場の第一線で活躍しているリーダークラスに第一次面接をお願いしたが、その関門を通過したのは3 名中1名だった。その1 名は第二次面接の役員面接も問題なしとして採用に至った。
従来からの感覚でいえば、プラス 2 名は採用したと思うが、リーダークラスの社員とは採用視点が違うことを思い知らされた。
事務系社員の採用はほとんど問題なく結果は同じになるが、こと営業社員となると判断が難しく、意見が分かれる。接客業には合わないかなと思い、採用を逡巡するケースもあったが、意に反して数年後当社でも有為な好成績を残す社員もいるからだ。反対にまさに営業にピッタリだと思った社員が、採用後鳴かず飛ばず低迷しているケースもある。
営業社員の採用判断基準は「自分がお客だったらこの人から物を買うか?」という視点から判断しているが、中途ならいざ知らず、経験のない大卒レベルではその判断基準も完璧ではない。
ともあれ 2023 年度新卒社員は1名になった。同期生がいないのは寂しいだろうが、なんとか頑張ってほしいものだ。
振り返ると応募者が少なかった原因は、先に述べたように、大手企業が昨年よりも採用活動が活発化した点と当社自体が新卒に十分力を入れていなかったことが大きい。
戦力化するまでの教育投資が 3 年、大学卒の 3 年未満退職率 30%を考えると社員一人当たりの投資額は 3000 万を超えるだろう。この投資回収を考えると新卒より中途を考えることも致し方がない事かもしれない。まして景気浮揚の重点方策として賃金の大幅値上げがあれば猶更だ。この堂々巡りの議論はいつも同じだが、吉田松陰の言葉が脳裏によぎる。「人賢愚(けんぐ)ありと雖(いえど)も各々一、二の才能なきはなし。備わらんことを一人に求むることなかれ!小過をもって人を棄てては大才は決して得るべからず」は古今言い古された定理だ。人は愚かな人も賢い人もいるけれど、一つか二つの才能もない人はいない。だから他人に完ぺきを求めてはいけない。小さな欠点があるからと言って、もうこの人はダメだという風に捨ててしまったら、絶対に大きな才能を見出すことはできないという。
そうは言っても時間的制約のある中小企業では、当面中途と新卒のミックスで組織構築を考えざるを得ない。ともあれ、社員を採用するということは、企業の設備投資の一つであり投資回収期間を考えて実施する重要な経営課題でもある。少子高齢化が進む中では生産労働人口の減少は避けられない経営課題であり、人的資本をいかに蓄えるかに企業の将来はかかっているのは論を待たない。その人的資本の入口にある採用こそ企業の全精力をもって臨む必要があるはずだ。
面接でも入社後の研修でも、口を酸っぱくして言っていることがある。ほとんどの希望者が「就職では なく就社」で判断しているのは間違いだという点だ。就社は有限だが就職は無期限だし、自分自身のスキ ルをいかに磨けるか、という自分のキャリアアップの踏み台になれるかを、選択の基準にするべきだ、と 話している。それとともに、自分自身の雇用を守るには、自分の仕事の参入障壁を作ることができれば、 より安全だということだ。つまり属人的な仕事内容を選べばいいことになる。会社組織から言えば、属人 的仕事内容は業務効率化から言えば排除すべきことだが、当の本人にとっては自己保全の上からも有効で ある。誤解を恐れずに言えば、専従的資格を持ち、そのスキルを他に替えられないほどの技量を持てばい いことになる。体力的にも 45 歳を境に衰えてくれば知識と経験がものをいう職種が最適になり、そういう業界を選べば将来の自分を助ける事にもつながるという話だ。ライン職と専門職としての生き方にもなる。その点からいえば当不動産業界は様々な資格が必要とされ、知識と経験で勝負ができる最適な業種といえ る。まして共働き世帯が 80%で年金の支給開始時を考えれば 70 歳まで、約 50 年働き続けることになれば 猶更だ。
あのスティーブ・ジョブズが「起業家が成功するために必要なこと」として、あるインタビューで 2つのことを挙げていた。その中の一つは「優秀な人たちを集める能力」だそうだ。今のアップル社であれば、優秀な人たちが自然と集まる流れがある。また、アップル社でなくても、お金に余裕があれば、高い給料 を提示することで、優秀な人たちを集めることも可能だ。
しかしながら、多くの中小企業では「優秀な人たちを集めたいけれど、なかなか集まらない」という実態がある。一方で、「採用する前に、短時間でその人の能力を見極めるのは難しい」ともこぼしている。一人でできることには自ずと限界がある。価値観が多様化する中で、たとえ、スティーブ・ジョブズであっても、人が他人の能力を短時間で見極めるのは難しい。優秀な経営者に限って、他人の出来ていない要素に目が行きがちだ。このため、本来は人に任せた方が良い仕事も自分で抱え込んでしまい、結果的に経営者本人が会社の成長にとって最大のボトルネックになっているケースがある。
あのスティーブ・ジョブズも、自分の作ったアップル社から一度は追い出された経験がある。つまり、真に優秀な人たちを集めると、時には自分の地位を失う可能性がある。オーナー経営者の場合は、そのような心配はないかもしれない。ただ、優秀な人を集めるといった場合に経営者の中で、無意識のうちに「自分の言うことを聞いてくれる」という条件付きになっている。神様でもない限り、どんなに優秀な人であっても、他人の能力を正確に見極めることなどできない。そうであるならば、一度客観的に自分の能力を見極めた上で、「足りない部分を補ってくれる人を探す」「過大な期待はせず、成長を見守る度量を持つ」「人に依存し過ぎず、仕組みでカバーできるところを増やす」ことが大切だ。(ヒーズ(株)岩井徹朗氏 談)なお、これを実現するには強い情熱と自制力が必要不可欠である。
組織は言うまでもなくどんな有能な人でも一人では動かせない。以前サラリーマン時代に担当役員に、「君なら月に 5,000 万は出来るだろう!しかし、私が求めているのは月に 10 億だ!」と言われ調子に乗っていた鼻をへし折られたことがある。組織の重要性を言われたわけだ。一匹狼的な有能な社員の集合体ではなく、普通の社員が達成できる売り上げ組織作りを課題にされた。そこで属人的なスキルに依存する体制ではなく、システムで売れる体制作りを試行した。販売商品の整理統一化とルート営業の構築だった。それなりの成果を上げたが道半ばにして神奈川県に戻された。後任者に託したが上手くいかなかったようだ。欠けていたのは、やはり教育だった。
転勤の多い職場ではどうしても顧客対応や社員教育が中途半端になってしまう。それが嫌で退職し今の当社がある。地域密着型だが、社員への課題はマダマダ多い。
会長 三戸部 啓之