327号-2024. 10

[ 2024.10.1. ]

327号-2024. 10

企業は永遠なり!企業経営者の夢だ。その為には基本となる「売り上げの安定」が必要だ。「100年以上事業が続く企業の実例」から考えてみたい。
地球上で一番古い会社を知っているだろうか?
因みに日本の会社で、「金剛組」と呼ばれる建設会社で創業は西暦578年だ。社寺の建築や修復工事などを主に行なう会社で、多くの宮大工を抱える専門技術集団だ。1447年前といえば、飛鳥時代の創業になる。旧来からの伝統的な建築を得意分野としてきたが、神社仏閣にもコンクリート建築が増加したことにより、大手ゼネコンとの価格競争に巻き込まれた。売上の減少や資金繰りの悪化により経営危機に見舞われたため、髙松建設が支援を行い、子会社化された。経営は失敗したが名は残った。しかし中身は変わっていない。
子会社化により宮大工100人がそのまま移籍しているので、現場サイドの技量や考え方、工事の進め方はそのままだからだ。だが、どんな名門企業でも売り上げがなければ企業は存続できないのを証明したともいえる。

実は世界の古い会社ランキングの1位~6位までは全て日本の会社だといわれている。世界で創業100年以上の企業は約8万社あり、その中で、日本の企業は約40%を占めており約3万3000社もある。それは世界で最も多く存続していることになる。

創業100年なら当然世界恐慌、2つの世界大戦、石油危機、バブル経済の崩壊、リーマンショック、コロナ禍などを乗り越えている足腰の強い企業ともいえる。
私たちの国には「世界一」のビジネスの本質が眠っているともいえる。特に最近、日本式経営が否定され、欧米の企業を真似る事が経営理論の趨勢だが、れっきとした教材が足元にあるというわけだ。

帝国データバンクが1,000社以上の「100年企業」に「100 年以上に渡り事業を継続できた理由(複数回答)」というアンケートをした。その結果最も回答が多かったのは、「ブランド力・知名度」30.5%ではなく「従業員を大切にする社風」37.9%でもなく「強みとする事業分野への特化・集中」46.2%でもなかった。最も多かったのは「取引先・顧客との信頼関係」73.8%だった。

会社の「知名度」よりも「社風」よりも「強みに集中」することよりも、圧倒的に多かったのは「お客様との信頼関係」だ。この当たり前とも思える事が、世界一の長寿企業国が導き出した売上安定の答えだった。とはいえ「信頼関係」と言われても、お客様を大切にすること、おもてなし・感謝の心など再現しにくいフワッとしたものばかり。「我々はお客様を大切にしています!!」と直接伝えたところで信頼は高まらない。「おもてなしを大切に!」と社員に言っても上手くいかない。

この当たり前で誰でも理解している事が、日常行動に現れなければ全く意味がない。

有名なホテルリッツカールトンの「クレド」(行動指針)が有名だ。これを真似た企業は多かったと思うが、定着した企業は数えるほどしかない。その理由は価格帯により顧客層が違うため、その要求レベルは異なる。低価格帯のホテルではスピードが要求され、高価格帯のホテルではラグジュアリー感が求められるから、内装とか設備とかのハード面のレベルも高いし、従業員の接客態度や商品知識もハイレベルになる。つまり客層に応じた従業員の配置が絶対条件となる。
 

 飲食店で置き換えれば、一杯1000円のラーメン屋と3万円の中華料理では顧客の要求レベルも違うのは当たり前だ。ラーメン屋の顧客対を3万円の中華料理店で行えば、顧客は二度と来店しないのは明白だ。時代とともに顧客の志向は変化するし、経営側の対応も変わる。顧客のニーズに適応できなければ、淘汰されることなる。巷間言われる点は、絶え間ないニーズに合った商品開発と強力な販売体制が必要になる。そこには人が介在する。感情を持ち、か弱い肉体を持つ人がいるのだ。機械のように命令一下、24時間何も言わずに黙々と働くことができるわけではない。しかも様々な考えや背景を持った人たちが集まる集合体なのだ。

 

最近では少子化を踏まえ人財資本主義という考えも出てきた。単なる労働力ととらえるのではなく知的源泉として位置づけようという事になった。国側も労働者を消耗品ととらえるのではなく、貴重な資源として様々な保護政策をとっている。戦後昭和の時代の価値観からすると違和感がある。物のない時代に育った昭和の経営者にとっては供給側の論理が働く。いいものを作れば顧客は買いに来るという発想だ。当然そこには原価積み上げ方式で相手の購買力は視野にない。買っていただくという思想がないから生産者志向が当然の帰結になる。物の価値がわかりカネに糸目をつけない顧客をターゲットにするなら成り立つ発想だ。勿論それだけの価値ある商品を生み出す力があれば、飛躍的発展は無理だが、企業の存続は可能だろう。

汎用品をメインにする企業や、商品で明確な差別化ができない企業にとっては、人を前面に打ち出すしかない。サービスで差別化するしかない。サービスは単なる奉仕ではない。顧客の求める顕在的潜在的欲求を満たすことが必要だ。「私のことを真剣に考えてくれる」「ここまでやってくれるんだ」「いざとなれば頼れる」という評価が必要だ。それが信頼につながる。その前提になるのは「きちんと報告がある」「ストレスを感じさせない行動と結果」「スピード重視の姿勢」「なんでも解決できる対応力」「信用できる行動」などがある。いっぱしの経営者なら常日頃社内でくどいほど言っているはずだ。

社内外を含めて研修もしっかりしている。しかし、中々日常業務に定着しないのが現実だ。

当社ではそれを「躾」と呼んでいるが、顧客の不満は解消されないことが多い。当社での年間研修予算は1000万だが、効果が出ているとはいいがたい。「勉強になっただけでは終わらせない」ことがポイントで、日常行動に落とすよう徹底しているが、このレベルができない事での原因が多い。
社長と社員の我慢比べのようだが、サービス業での差別化は社員のレベルを上げるしかない。

自分の子供でも躾は苦労しているはずだ。見ようによっては、自分の子供でもそれなりの苦労と時間がかかるのに、まして教育環境や家庭環境も違う社員にはそれに倍する時間と労力がかかるのは仕方がない。社員側も自分のキャリアアップの階段として入社しているはずで、彼らにとって意味のある研修でなければ前向きには取り込まない。企業側の一方的な押し付けでは全く意味がない。更に、大卒が入社3年で30%が退職する昨今では、企業側の人的投資回収は不可能だ。一方的に注入するだけで、会社を去ってしまう現実は痛い。そういう現実を前にすると戦後昭和の日本的経営の見直しは急務かとも逡巡する。少子化を踏まえると外国人の雇用が2050年には30%を占めるともなれば猶更だ。人的対応で差別化を図らざるを得ないサービス業では大きな課題を突きつけられたことになる。

 

 アーバン企画開発 相談役 / ゆいまーる代表社員 

                  三戸部 啓之