[ 2012.8.29. ]
181号-2012.8.25
前号に引き続き当社の基幹業務担当であるアフター担当社員と資産管理・管理受託担当について夫々の位置づけと課題について整理してみたい。
この部門に共通しているのは、夫々貸主(オーナー)に直接接している部門だということである。アフター課は入居者のクレーム対応や退去精算も合わせて行うので、日々貸主側に直結している。貸主代理類似行為としてその業務を行っているし、その処理の拙劣次第で金銭的負担の多寡が決まってくるからである。
入居者に対しても快適に住んでいただくよう、何時も心して対応しなくてはならない。それが「優良な入居者に長く住んでいただく」事につながり、アパート経営が安定する。入居するまでは賃料等の賃貸条件で決まるが、入居後は「居住環境の快適さ」が評価のポイントになる。
当社の例で言えば平均37ヶ月の入居期間なので、長期にわたりお付き合いをすることになり「テナント・リテンション能力」が問われることになる。RA社員(当社の仲介部門担当)は、決め込むという「クロージング能力」と潜在ニーズを汲み取る「ヒアリング能力」が優績者の最低条件で、それも短期で信頼を勝ち取り自分を売り込む力が必要だ。反面アフター課社員は、特にストレス耐性と調整能力が必要だ。勿論、営業社員として双方に通底する「賢い行動:相手に評価される行動」は絶対条件だ。
そもそも日常業務の一つとして「アフター・クレーム対応」があるが、まずマイナスからスタートという点が特異で厳しい。緊急時性の有無の判断もあるが概して入居者からすれば殆どが個人的な緊急性を持っている。「テレビが映らない」「鍵を忘れたので子供が入室できない」「鳥の糞が車に落ちた」「上がうるさいから」「お湯が出ない、水が出ない」「空調がつかない」「子供が駆けずり回っている」「隣室のドアの閉め方がうるさい」「夜中のトイレの水の流し方が気になる」等々ある。第一報が入った時点でまず「その緊急性」を受付担当が判断しなくてはいけない。簡単そうでこの判断を間違えるとクレームが一層炎上する。「個人的緊急性」とは自己中心的な要求である。そこに「怒りや憤懣」が入り、直に当社受付担当にぶつけられるから、大体入社1年未満の女子社員は100%泣かされることになる。
毎月250件ほどの苦情が入りその内容も重いので、精算、発注事務や支払い事務も兼任している事務社員の中断ロスもバカにならない。先日も「騒音クレーム」で1時間程電話応対していた事や「鍵の忘れ」で手配や待機で3時間もかかった例もあった。
さらに現場に直行する社員は直接対面するわけで、その身勝手さや下僕扱いのような態度に唖然とすることも多い。「何故こんなことを俺がしなくてはならないのだろう?」と悩むに違いない。その上、「やって当たり前」という評価は「ありがとう」と感謝からは程遠い。
他部門と違い「砂を咬むような達成感のない」常に自己の平常心とコントロールが求められる極めて厳しい職場である。たまに入居者から「お礼の言葉や頂戴物」があった時など、その喜びは大きい。退去清算業務でも金銭的やり取りが絡む為、丁々発止のやり取りが起こる。対応次第で直ぐ「訴訟に直結」する為、やり取りの記録保存や言質を取られない事もポイントだ。幸いにも当社で訴訟までいったケースは2件しかないので、アフター担当社員の交渉能力は評価したい。だが課題もある。「貸主負担を一層軽減する方策」を考えて欲しいのだ。理不尽な入居者負担の軽減ばかりではなく、費用負担の少ない材質や施工方法の提案だ。
これからは単なる原状回復ではなく価値をあげるリノベーションの提案が必要だ。またクレーム処理や退去精算において契約書の条文をどう記載すればスムーズに行くのか、どういう書類を事前に入手すればいいのか、社内体制はどうあればスムーズに行くのか、を社内にフィードバックして欲しいのだ。当社でアフター担当社員を単なる業務社員ではなく、営業社員と位置づけているのはその含意だ。施工職人や施工監督レベルは当社では不要だ。退去時のアンケートから今後のニーズを汲み取りオーナーに提案する必要があるからだ。ニーズの最前線に立っている以上その情報は、生きた情報として貴重だ。アフター体制のできた現場に強い管理会社こそ生き残れるはずだからだ。
さて、もう一つの管理受託・資産管理担当社員も当社では重要な位置づけにある。
管理受託は字の通り、賃貸物件をオーナー様から管理受託する事が主たる業務になる。
資産管理も同じくオーナー様の資産の有効活用や資産の組み換え、節税効果を最大にするための提案、返済計画の見直し、キャッシュフローの最大化を図る部署である。
その為、原則として有資格者があたり賃貸仲介業務やアフターを経験した社員の中から選任している。当社の構成でも一級建築士3名、不動産鑑定士1名、マンション管理士1名、ファイナンシャル・プランナー3名、不動産コンサルティング技能者2名を配置している。
いないのは弁護士、税理士だが、当社の顧問先とネットワークを構築しているので、まず通常起こる不動産関係の問題はここで解決できる。「問題点の早期発見」こそが「後悔がない、ベストとは言えないけれどもベターの解決」は可能だ。その為にこの部署は常に提案件数と訪問活動がポイントになる。個人や家族の内面に関わる問題や金銭が絡む問題は、訪問頻度を上げ信頼関係を構築し、適宜な提案をしないと問題の解決がタイミングを逃してしまう為だ。特に長年この業務に携わっていると「行きやすいオーナー」に集中してしまい、異なる視野で見ることができないから、提案や問題点の把握が表面的になりやすく、真の解決提案にならない場合も多くなる。その点、プレハブメーカーのD社S社の営業社員は徹底的な戸別訪問をかけているため個人的な先入観がなく周辺情報を直接耳で聞き、足で確認しているから提案や問題点の把握が的を外れないし、足腰が強いため逆風や競合にも強い。
当社は思惑とは異なり、一寸した向かい風にも右往左往する社員が多く、薄氷レベルの知識しかないから通り一遍の提案しかできない。このように鍛えられた社員が少ないから顧客の反応の変化を読み取ることができない。つまり寝技も効かない「プッシュ一辺倒のワンパターン営業」なのだ。勿論必須の「ヒアリング」ができていないから提案も的外れで、噛み合わない。折角、今までの不動産の知識の集大成を図ることができる部署なのに、力を出していないのはその辺の自己点検と改善ができていないからだ。
まして、当社の一番のノウハウを出し、顧客と今まで以上の関係構築ができる好個の機会が持てる立場なのにだ。知識と知恵は決してイコールではない。研ぎ澄まされた経験が必要なのだ。「止まった時計でも一日2回は正確な時間を指す」という諺があるが、何もしなくても自己の存在が確認できると思っているとは信じ難い。往々に自分で仕事が取れない社員は「あえて火中の栗」を拾おうとなしないし、いつも飢餓感がないから感覚に鋭さもない。営業活動とはパイの取り合いという意識がない。綺麗ごとではないのだ。誰かが「飢える」しかない。「勇将の下に弱卒なし」という諺もある。社員だけに要求しても社長や管理職が愚将では無理だ。「採用した以上徹底的に教育しているのか」「社内の組織はできているのか」等々見直す必要もある。まさに近代戦は総力戦だと言う事を再認識した。
社長 三戸部啓之