222号-2016.1.25

[ 2016.1.25. ]

222号-2016.1.25

組織の要諦は「コミュニケーション如何!」 言い古された言葉だが、永遠の課題でもある。
2008年日経ビジネスオンラインに掲載されたアンケートによれば、748人の回答者のうち、約7割が「職場に苦手な上司がいる」と答え(過去にいたという回答を含めれば9割近く)、その理由として「指導力がない」に続き、「人の話を聞かない」「意見交換ができない」があげられている。逆に「職場に苦手な部下がいる」かどうかを261人の管理職に聞いたところ、同じように約7割が「いる」と答え、その理由は判で押したように「言い訳をする」「言われたことしかしない」「人の話を聞かない」だった。要は「あの上司は自分の言っていることをわかってくれない」「あの部下は、自分の言っていることを理解していない」と言い合っているわけだ。

アメリカでも、例えば上司の86%が「自分はコミュニケーションがうまい」と考えているのに対し、認めている部下はたった17%という報告がある。素直さや本当のコミュニケーションを根付かせるのは簡単ではなく、あの名経営者といわれたGEのウエルチ(アメリカ ゼネラル・エレクトリック社の元CEO)でさえ10年かかっている。

 夫婦間でも離婚の原因のひとつは、このコミュニケーション不足にある。くま2
お互いが認め合い、数ある中から選ばれたカップルでも、何年かすると、お互いの意思疎通ができなくなる。夫婦・親子という最小の組織体で、しかも同じ屋根の下に住んで、顔を見ているにも関わらず破綻分裂要因になるのだ。夫婦間といえども合意なくては解決できない事項もたくさんある。それも仔細なものから、夫婦生活の存続に直結するような事項もある。共同意思で決定する事が原則だが、そのすべてに関与する事は難しい。日常的な事は相手の判断でお願いすることになるが、その判断と範囲もきちんと合意を得ないと「私ばかり・・」とトラブルになる。任せっぱなしはだめだという事になる。時々その内容を聞いたり、追認したりする必要がある。しかし結果責任は連帯だからどのような物であれ受け入れなければならない。これを否定したりすれば今後の円満な継続は難しい。そのためにも判断にいたる経緯や現状を把握する必要があるし、どんな時間的余裕や精神的余裕がなくても関与しなければならない。夫婦関係には夫婦生活という言葉があり、家族関係には家族生活という言葉はあるが、その意味するところが大いに異なる。それほど家族関係の要素に夫婦生活がポイントになるということだ。家族関係以上に様々なコミュニケーション手段をとらないといけないことにもなる。しかも財産分与という大きな利害も発生するから大変だ。

まして、企業であれば尚更だ。それぞれにミッションを持って参加しているからだ。それは時間的制約もある、他部門に絡むことも多くその関与次第でリスクは計り知れない。この手のノウハウ本が巷にあふれている。いつでも悩み多き事柄なのだ。誰もが数冊は手に取ったことがあるだろう。それも手を変え、品を変え同じような本が毎年出ている。セミナーも盛んだ。何版も重ねたベストセラーも多い。「自分の意思を相手に正確に伝える」「組織員のベクトルを一致させる」一見単純なことが永遠の課題だということがわかる。

ビジネス本は軍隊になぞられることも多い。ある評論家が「ビジネスは戦場ではない!」「戦闘用語が氾濫しているのは人権無視も甚だしい!」と声高に叫んだ事があったが、業界人には一笑に付された。「戦略」「戦術」「ターゲット」「競争」「淘汰」「武器」「戦闘集団」「拠点」と軍事用語は多い。軍隊組織と企業の組織は類似点も多いからだ。コミュニケーションの前提として指示命令系統がある。ある一定のミッションに向けて行動を起こし、一定の成果を目的とするからだ。これも意外と難しいから軍隊では上官の命令は、必ず復命という手順が踏まれた。復命には複唱が徹底された。上官の命令を一語一句繰り返えした。間違えれば重大な部隊の危機になるからだ。平時でも同じことが必要とされる。今風に言えばノミニケーションで常日頃、意思疎通を図り、朝礼ビジネス書やミーティングで行動の確認や市場動向を把握することになる。プライバシーにはあまり関与しないことが昨今の風潮だが、この手間を省くと予期しない事態に慌てることも多い。卑しくも「長」とつく立場にあればこの辺の状況把握は常に意識しなくてはならない。企業が生き残るということは、市場という限られたパイの食い合いだから、取った取られたの争いになる。決して共存共栄とはいかない。勿論、棲み分けやレッドオーシャンという通常の市場から離脱し、ブルーオーシャンという新しい市場で無競争ビジネスを展開する企業もあるが、企業トップの戦略次第だ。18世紀の欧米諸国での重商主義政策の一環としての新植民地支配がそれだ。最近でもアップルやフェイスブック、アマゾン等の新商品戦略もそれに当たる。「まねした電機」と揶揄された「松下電器:今はパナソニック」も創業者は、敢えて2番手戦略を選んだ。そして先行メーカーが開発した商品を持ち前の営業力で販売し、シェアーを確保した。それを「販売の松下」と評価された。ある評論家が「なぜ貴社は研究所を持たないのですか?」と聞かれた時、創業者は「当社の研究所は品川にある!」と喝破したエピソードが残っている。当時ソニーの研究所が品川にあったから其れを言ったのだ。このぐらいの豪快な経営者だから、経営の神様にまでに昇華したのだ。企業の存続は如何にするべきかが、明確に社内全員に徹底していたから可能だったのだ。トップの方針の元に資金、人等の経営資源を集中させる事ができた。そこには綿密な組織体制と人員配置、指揮命令系統が必要だ。それに素早い結果検証も必要になる。進出だけでなく撤退も入る。この成否は現状の把握と決断が全てになる。その要因のひとつがコミュニケーションとなるわけだ。松下電器が経営危機に陥ったときに、有名な「熱海会談」がある。全販売特約店の社長を一堂に集めて、3日間にわたり膝をつめて経営方針を説明したのである。

最近ではイトーヨーカドーの店長会議が其れにあたる。全国のスーパーバイザー、店長を全員一箇所に集め、創業以来毎年実施していると聞く。その費用は数千万と聞くが、「細かいところは直に接しないと伝わらない」と意に返さない。結果は周知のように業界ダントツの業績だ。

当社のような中小企業でも、コミュニケーションの稚拙さがトラブルに起因していることが多い。
「部下に任す」と「部下を放任している」のが同義の管理職もいる。「部下に任す」とは言うまでもなく「自分がしているのと同じ結果を出させる」事を言う。
決して部下に、すき放題をさせることではない。「連絡、報告、相談」ではなく「相談、連絡、点検」が必要だ。「報告」は最後の結果である。過程と点検がないとロスやミスが多くなる。相手の被害者意識も高まるし、教育効果もなくなる。先人の知恵や経験も発揮できない。全てのシーンでコミュニケーションをとる事ができる社員こそ、一人前の社員といえる。其れは「言葉の重要性を知る」という事だ。「口から出す言葉」「耳から入る言葉」「目で見る言葉」「頭の中で使う言葉:セルフトークとも言う」を如何に有効に使うかになる。また其の効果を測定しながら話す事が必要だし、本人の人格的表現とも判断されるから大変だ。心して意識しよう!

社長 三戸部 啓之