[ 2016.6.25. ]
227号-2016.6.25
『全員営業』を標榜しても、現実は全員に徹底することは難しiい。
売り上げが伸び悩み、利益が減少してくると、経営側からは必ずこの言葉が発せられる。しかし『全員営業』といっても国語辞典程度の理解レベルの社員が多く、日常行動には反映されない。
『営業』というから特に事務系社員は理解できないかもしれない。つい最近までは、『営業社員』とは言わず『外交』と言っていた。募集も『営業』ではなく『外交』となっていた。『日生のおばちゃん』の保険外交員が象徴的だが、『外交官』と同じ字句なので、誰かは不明だが、どこからかクレームが入ったのかもしれない。難関の国家試験に合格したエリートと同じ名称は相成らんということだと推測した。『外交』の方が、当時の営業活動の実態をよく表していた。いまの外交官の方が、外部との交渉や駆け引きに疎いエピソードがよく聞かれるので、名前負けしている感じがする。
ともあれ、今は『営業』である。『外交』より意味が広くなるので、その分、職務範囲も負荷も増えた。
それが『営業職』を嫌う理由の一つかも知れない。物を売るだけではない、情報収集しライバル動向にも注視し、新製品の開発やユーザー指向、得意先動向を監視し、与信管理も当然に含まれる。
つまり、『業を営むレベル』の高度な仕事になっている。昔風に言うならば『男子の本懐』にふさわしい仕事だ。我々がこの会社を背負っているという気概があったし、将来の役員候補を目指すなら、絶対に営業職で成果を挙げようとした時期も遠くなってしまった。今は女性の進出があり男性以上のコスパを出すものもいる。それだけ多方面の知識ときめ細かい対応が求められるようになってきたし、単純なプッシュ営業手法では中々成果に結びつかなくなった。ごりごりの営業マンではなく『スマートさのある』営業が求められてきた。女性が家庭内の決定権者になりつつあることは時代の趨勢だということもあり、女性に好かれる営業が生き延びることになる。
営業は常に数字で評価される宿命であり、精神的負担は他の業務と比較にならない。私もサラリーマン時代には、「自分で経営している感覚で物事を見、考え、対処しろ!」といつも耳にたこができるほど言われたものだ。しかし最近はその数字でさえ余り気にせず、淡々と勤務している若い社員も多くなった。「自分は一生懸命している、成果が出ないのは会社の責任だ!」という他責型で思考停止状態の社員も増えつつある。各種労働法規も成果ではなく勤務時間の長短で労使関係を見ているところがある為、所定の時間さえ過ごせば事たれり!と考える社員が増えているのもこれを裏付ける。『全員営業』を標榜しても中々浸透しないのは、目標が明確になっていないし、加えて担当している職務ごとに、何をするべきか?が具体的になっていないからだ。『営業と同行しプレゼンをする』『紹介を〇件とる』『独自に見込み客を見つける』『得意先を電話フォローする』『DMを担当する』等たくさんある。当社の例では『不良入居者を事前排除する』がある。
この点の変化を見る好個の事例があった。 当社のサブリース物件(不動産転貸を目的としてオーナー様から部屋などを一括で借り上げる)の一つが、長期空室になっていた。当然空室賃料が毎月発生しその保証も馬鹿にならない。当社の管理基準である入居率97.5%、サブ粗利率10%という指針があるので担当者はこれを目安に行動した。つまり誰でも考え得る一番安易な、広告料を増やし礼金をなくすという入居促進策だ。その後、東京の業者が客付けに入り、広告料150%、礼金なしで仲介した。結果決まった入居者は中国人で、後日風俗を開業していることが判明し、用途違反で解約手続きに入る事になった。なぜ当社の審査を通り抜けたか…?契約担当は書類審査でも、電話での確認も問題はなかった!という。サブリース担当は、審査が通過したのでそのまま入居を認めた。だれもその責任は認めない。やる事はやったという言い訳だ。でもその為に『風俗が入居した事実』は否定できない。責任は当社が取らざるを得ないのだ。
当社の顧問弁護士のアドバイスにより、用法違反事実を確認する為に、探偵事務所に調査させる事になった。その費用は30万、内容は予想されるとおり、実際に現場に行き各種サービスを受け、その証拠写真を隠しカメラで撮影して報告書を提出してきた。この程度の内容は社員が現場に行き事実を把握していたが、当社も大きくなったから社員の安全を第一に考えたのだろう!
この事実を元に訴訟に持ち込み退去手続きに入る、その弁護士費用は100万。勿論、残置物や控訴(時間稼ぎと和解費用を出させる為にすることもある)したりすることも考えると50万は余分にかかることも予想される。当の担当者は弁護士の意見を元に当社の対応を確認してきた。しかし、私は拒絶した。そのまま是認していれば費用ばかりかかり、当社の交渉力とノウハウは蓄積されない。
当社のような管理会社社員は『暴力団を含めた反社会的団体』を退治し解決する能力がなければ一人前とはいえないからだ。 色々と御託を並べる社員は多くいるが、残念ながらそれができるのは当社で数人しかいない。以前いた契約担当責任者は当社の審査をスルーして入居者と契約し、後日実際に反社会的な人間と判明した時に「私もそうだと薄々感じていた!」と発言し、あまりの無責任さに「なぜその時に契約を中止しなかった!」と怒鳴ったこともある。頭と要領は良いが、実践で役立たない社員がいると、こういう問題が何時でもどこでも起こる事になる。今回の事例でも、賃料約11万を得る為に、200万近い損害を被った。
反社会的団体や不良入居者は、相手をだますために色々と考えている。表面的な書類審査しかしなければ、完璧な書類を作り、それなりの準備をしている。以前あった例だが、保証人の電話番号を転送して自分の持っている他の番号にかけさせ、仲間に返答をさせ保証人の承諾をクリアーさせた例もあった。また移転理由が納得できないと営業責任者が判断して、旧住所に出かけ確認した結果、暴力団であった事が判明したケースもあった。要は、入居させる事は誰でもできるが、その是非は修羅場を潜り抜けた社員だけが判断する事ができるのだ。入れるのは赤子でも簡単だが、出すのは力仕事だという事である。非営業は利益を守る部門と考え、書類の隠れたシグナルを読み取る力があれば、立派にその職責を果たしている。
契約の対面時にそのシグナルを読み取れば、さらに突っ込んだ問いかけで実態が判明する。そのちょっとした手間隙が利益を守る事につながる。そういう限られた情報の中でどう動くか、何が問題だったのか?を検証して社内に水平展開する必要がある。書類審査が完璧だったからといって免責なのではない。現に風俗が入居しているのだから! サブリース担当も審査担当がOKしたからといって免責ではないのだ。貸主側としての最終判断が欠如している。ダブルチェックがない。それは『入居率』という手段を目的にしているからで、『利益の確保』という最終目標を忘れている。『利益の確保源泉』は事務所の中にたくさん転がっている。『鳥の目で見る』事も必要だろう、『虫の目で見る』事も必要だ。非営業は事務所の中にいる以上、異常値になかなか気付くことができない。だから感性を鋭くし、周りの状況に耳を傾けなければならない。営業部門は常に数字を追いかけているが、非営業部門は『利益を守る』のがミッションである。『利益を守る』とは、損失を出さない、本来得られる利益を確実に手にする、効率をあげる、無駄をなくす等たくさん挙げられる。
「一生懸命やっている!」というのは『非営業』だけに通じる勝手な言い訳だ。結果が全てである。でなければ意味がない。このような小さな積み重ねが会社の利益をどんどんなくすのだ!
社長 三戸部 啓之