232号-2016.11.25

[ 2016.11.25. ]

232号-2016.11.25

 

コスト削減は企業の永遠のテーマだ。 それは2つ理由がある。ひとつは企業の利益を増やす一番の近道だからだ。例えば社員一人で一日330円のコスト削減ができれば月約10.000円、年間120.000円となり、それが利益に直結する。年間120.000円の利益に相当する売上は、売上営業利益率が15%だとすれば80万円の売上に相当する。社員が100人いれば8000万だ。

8000万の受注をすることは、中々大変だが1200万のコスト削減をすることは意外と簡単だ。一日に直せば330円なので、普通紙ミスコピー60枚分、カラーコピー約10枚だ。 当社の月間コピー数量は全拠点で5万枚、平均ミスコピー率は5%だから2500枚、一日当り100枚になる。そのコピーは必要性があるのかという点を見ると更に多いはずだ。

コピーの一寸した工夫だけで500円、売り上げ換算すれば一人約100万、全体では約1億円という驚くべき数字になる。そのコピーする人件費も入れれば「チリつも」で、更に売り上げが加算される。単にコピーだけでも無駄を省けば年間売り上げ、利益の底上げは可能なのだ。

もう一つはコストを削減することで無理や無駄を意識する事である。
現場はムダが一杯だ。書類のミスで訂正すれば、書き直し費用、再送費用、相手先への通話料、もしトラブルになれば相手先に訪問する費用も入れれば直ぐに数千円~数万になってしまう。それで顧客の信用を失えば損失はさらに増え、会社にとって一番大事な「信用残高」もなくなる。

「赤信号!みんなで渡れば怖くない!」「俺だけくらいは・・!」という意識が根底にある。多数に埋没する個人は無責任になる。お神輿と同じ理屈だ!誰かが手を抜いてもお神輿は動く。

どこでも、企業には「経費節減!」「無駄をなくせ!」の標語はある。でもそれがちゃんと機能している企業は少ない。コピーのカウントを部署別にとったり、課金制にしたり(勿論、後日、本人に戻すが)しているが、実効性という点では首をかしげる。「会社の金は他人の金」という意識だ。他人の痛みは自分では体感できない。例え一円でも不足すれば納得できないが、人の金なら何も感じないということだ。「利益」というコインが落ちているのに拾わない。有名な未来工業という従業員780人の会社がある。資本金70億のれっきとした名古屋証券取引所の上場会社だ。ここでは、全社に一台しかコピー機がない、照明は紐付き蛍光灯だ、社長専用車は30年前のクラウンだ。徹底的に無駄を省き、それを従業員の待遇改善に向けている。「日本一従業員が幸せな会社」と言われ、65歳で平均年収600万、定年は70歳、「営業ノルマ、残業一切なし」だが、改善提案は年間1万件という凄さだ。「教育しない」「管理しない」「強制しない」の3原則のもとに「自ら考えて行動する」ことが徹底されている。これを自律性の高い組織、自己責任を徹底している組織という。

話は戻る。コピー機は殆どがリースで、使用枚数ごとに課金されるビジネスモデルだ。これを「ゼロックス・モデル」という。高度成長時代の日本は、製品を「売る」「買う」「使う」ことを繰り返して驚異的な成長を成し遂げた。しかし一時に高額なコピー機を所有するために投資するより、月々の使用料を支払う方が、資金的に余裕が出てくるので、市場を席巻した販売モデルだった。物を所有して使うという固定概念を払拭し、他人の物を借りて使うという新しい概念を導入した。

今流行りの「アイドル・エコノミー:IDLE ECONOMY」という概念にも通じる。現在のように「買いたい物がない」低欲望社会では物が売れない時代になっている。しかし新しい物は買わないけれど「ちょっとこんな事がしたい」というささやかな要望はある。そこで成長期の販売モデルが成り立たたない先進国では「シェアーの時代」が来ている。人々が持っているリソースをマッチングするというやり方で、何であれ、所有しているものを他の人に使ってもらうという考え方だ。「カーシェアー」「シェアーハウス」等、様々なビジネスが出てきた。ところが最近では、さらに進化し「自分で所有する必要がなく、空いているリソースの情報を使いたい人に提供」して利益を得るモデルだ。「自分が固定費を抱え込まなくてもよい」やり方だ。民泊で問題になった「Airbnb」やタクシー業界を騒がした配車アプリの「Uber」等がある。印刷業界では日本の「ラクスル」が有名だ。自社は印刷機械を持たず、印刷会社の空いている機械を活用してチラシや名刺などを印刷するビジネスモデルだ。通常企業は何の疑いもなく、印刷する為に高価なコピー機を設置している。その稼働時間は一日数時間だ。リース代と印刷枚数を考えればかなり高いものになっている。一枚あたりのコストは誰でも気にするが、コピー機自体がおいてある場所代も関心がない。坪当たり1~3万にもなる。それらを合計すれば従業員5人レベルの不動産会社で普通紙一枚300円、50人規模の会社で100円は下らない。コピーメーカーも考えた。単体機能ではなくファックスも入れた複合機が主流になった。ファクス受信でコピー代が必然的に加算され、コピー単体の価格も薄まるわけだ。更にファイル保存機能等も加味することで総合的な機能を持つビジネス事務機として位置付けられている。便利さを一台に凝縮することで一機能単価を比較できないようにしているわけだ。

この流れに反して複合機能をあえて分化し、一番コストのかかるコピーを減らし、ペーパーレス化にしようという企業も出てきた。ペーパーレスはコピーの経費節減だけではない。保管庫や収納スペースが不要になる。本人も書類の整理がしやすくなる。重要度のない書類、いつか使う書類も破棄の対象になる。事務所も整然となり余裕ができる。ただこれには経営トップの強い決断が必要だが実行は中々難しい。

昨年10月に広島県広島市にある「株式会社 部屋店」という不動産会社に見学に行った。広島市では後発組だが、新しい発想で取り組んでいる新進企業だ。店舗数は5店舗、従業員30人の中規模不動産仲介会社だが、仲介店舗は普通にある物件案内はなく、店内はサロン風の雰囲気だ。あるのは社員の等身大の写真やイベントの写真だけである。来店客には店のパソコンから物件情報を引き出し、気に入ったら案内する。印刷は契約の時だけという徹底ぶりだ。物件案内も地元のタクシー会社と提携し社員は同行するだけで運転はしない。トータルコストを考えれば社有車を持つより安いということらしいが、当社に置き換えると一店舗当たり月間案内件数60件と見れば一案内当たりのコストは約1500円(人件費別)、やはりタクシー(約3500円)よりも安い為使用している。しかし、全社の保有台数42台の稼働率、社員の事故リスク等を考えると再考の余地はある。又、コピーの話になるが、先のラクスルという会社の普通紙印刷代は現在使用している会社の1/10、フルカラーも同じでしかも紙代込だからコストは相当安い。複合機を使用しているからコピー機を廃止にはできないが、緊急性のあるものしかコピーしないようにしている。3日以上猶予期間がある物で、大量印刷の物は全てラクスル印刷し、仕上がりも申し分ない。

IDLE ECONOMYというビジネスモデルが一般化すれば既存のビジネスモデルは淘汰される。大企業といえども例外ではない。ドックイヤーと言われた時代もあったが、今は「光のスピード」で変化している。ストリーミングという技術で10万曲を月1000円で聞ける時代なのだ。CDも不要になる。今後スマホの情報検索で全てを共有できる時代が来ればコピーという概念もなくなる事は必須だ。紙媒体自体が20世紀の遺物になる。人口頭脳(AI)が機器に組み込まれればデータ保存という事もなく、蓄積されたデータで判断してくれる。人間の記憶する機能も必要がなくなる時代がそこに来ている。そもそも資料を保管するということもないからビジネス自体が変化し社員も不要になる。大変な時代を見ている社員は何人いるだろうか?

                                                                                      社長  三戸部 啓之