259号-2019.2.25

[ 2019.2.1. ]

259号-2019.2.25

 他社から学ぶことはたくさんある! 契約書、サイトの内容、営業姿勢、販促、顧客開拓、営業管理等々である。

当社では年間2100件近い仲介件数がある。内、自社管理物件を他社による仲介(業界では自社物他社付という)が約600件を占め、弊社が他社の物件を決める事(他社物自社付けという)も約600件ある。残り900件が自社物自社付けになる。全国ブランドの大手仲介業者、中堅、地場業者による仲介や物件と様々だ。契約書一つとっても、相手業者のレベルがわかるし、契約手続き、対応の仕方も参考になる。つまりその気になれば自己研鑽の材料の宝庫でもあるし弊社の振り返りにもなる。弊社の他社付専門チームでは毎朝昨日の就業時間外の他社付成約情報を全社メールで流してくる。

平均すると一日5~10件だが、仲介に定評のあるTハウジング、Aブル、AMショップが多いが、たまに余り知られていない仲介業者からも申し込みが入る。

物件申込書に書かれてある事項を確認するために、先の仲介会社の担当営業と話すわけだが、事務的作業のように所定の事項の確認だけで終わらせるのではなく、「来店経緯、何処を気に入ったのか?を最低訊け!」と指示している。

 

「来店経緯」なら、どういう経路でその会社に導かれたのか、がポイントだ。直接飛び込みで会社に来たのか、ネット経由なのか、で対応が異なる。飛込なら相手の店舗立地から判断できるし、動員するイベントや販促、チラシ、現地看板等も参考になる。ネットなら相手の会社のホームページ、サイトのプラットフォームと比べることができるし、自社のサイトの問題点も判明する。サイトの運営会社はこちらから要求すれば、地区の物件ごとのアクセス数やネット滞在時間等も簡単に教えてくれるし成約期間もわかる。競合物件との数値的な比較がわかるというわけだ。内容的に同じなら問い合わせに対する反響率や、返信率へと深堀出来る。会社全体の問題点から営業社員個人の問題点へと探る事ができる。そのプロセスの中で管理項目を決め定点観測すれば、自社の改善点や問題点も数値的に把握でき教育の資料にもなる。

更に、過去6ヶ月間で当社の物件仲介を3件以上した他社付仲介会社の営業マンのリストを作成している。それを半期ごとにお礼を兼ねて責任者が訪問するわけだ。それは意外と効果があることが分かった。担当者が直接訪問する事はどこでもあるが、お礼を兼ねて責任者や社長が挨拶に行くことはあまりなく、相手にとり会社全体で取り組んでいる!と印象が深くなるからだ。印象が深くなるという事は数多ある空室物件の中で一番先に当社の物件を思い出してもらう契機にもなりやすい。勿論、担当者が相手の営業と頻繁に連絡を取り、物件情報を常に提供していることは欠かせない。彼らは歩合制を取るところが多く、手間がかかることを嫌うからだ。非公開だが正確な情報、案内に手間をかけない事が必要になる。副次的効果もある。相手の会社に訪問する事で会社の雰囲気を探る事ができるし、接客態度も判明する。更に親しくなれば具体的な営業方法もわかり、当社へのフィードバック効果も大きい。一寸ひと手間をかければ、このように自社の改善の契機になるし情報の宝庫にもなる。この生きた貴重な情報こそ経営戦略上も必要なものだが、部課を管理するリーダーがその意義を自覚しなければみすみす逃していることになる。


当社では他社物仲介も600件近くあるので、他社情報を合法的に入手できる立場にいる。
というのは当社で仲介した以上、契約時に必須の重要事項説明書というものに媒介業者及び宅地建物取引士として捺印の義務があり、その控えを保存する義務があるからだ。
そこには、その会社の申し込みから契約に至るフォローが一目瞭然にわかる。どこにどんな書類を必要とされ、その内容はどんなものか、である。契約書一つとっても当社とどこがどう違うのか、
新しい条項はどのように入れているのか、当社で問題になっているトラブルや解決方法をいかにヘッジしているか、がわかる。
この辺の問題意識のない社員だと、単に仲介手数料だけもらえればいいとばかり、全く関心がなくそのまま管理部門に渡してしまう。もったいない話だ。
管理部門も作業レベルだと機械的にファイルしてしまい折角の貴重な情報が死蔵してしまう。
特にナショナルブランドのHメイト、D建託、Hコムなどは優秀な社員も多く、法務部まで抱えている会社がある。その最先端の知恵をただで入手できる絶好の機会なのにみすみす逃していることになる。それでは何年たっても知恵と経験は蓄積されない。
特に我々不動産業界は情報の非対称性がビジネスの根幹だから、街場の不動産屋まで非開示を徹底していて進歩がない。相手の情報は鵜の目鷹の目でほしがるが、自社の情報は客観的価値のあるなしにかかわらず出したがらない。以前当社が主催して勉強会と称して市内の業者5社と情報交換をしたが3年と持たなかった。一方方向で交換にならなかったからだ。危機感を共有している業者なのでうまく機能すると考えていたが無理だった。同じ地区なのでうまく機能しなかったのかと考え、川崎市と横浜市へと範囲を広げ、同じような業者6社と試みたが5年で解散した。ここでは年ごとに業者間の格差が顕著に表れてきたために、なんとなくギクシャクしてきたからだ。それ以来、この手の会合はやめにし、全国の優良管理会社の団体である「(財)日本賃貸住宅管理協会」での情報交換会にだけにしている。
このようにとらえ方次第で、自己啓発するためにも業務改善するためにも、題材は周辺に転がっているという事になる。当社でも優秀な社員は、この辺の情報をさりげなく取り入れて改善している。
反対にダメな社員は目の前の仕事にフウフウ言いながら振り回されている。とても改善どころか余裕もないから、いつまでたっても非生産的で効率が上がらない、更に仕事に優先順位をつけられないから時間の配分も下手で精度も低い。「人とは性善なれど、性怠惰なり」と言われる。肉体的に極めて弱い人類が、絶滅することなく短期間でこれだけ繁栄したのは、この危機を予知、察知する事ができる知能によるところが大きい。しかし、この能力が同時に、人類の歴史において国や企業の永続性が保てず、時がたつと滅亡に導いてしまうという副作用を生んでしまった。国や企業が大きくなり、ある程度安定すると、今のままで良い、今のやり方を変えない方が、当面の食う飯を安定的に確保するには良いと考えてしまう。そして未知のもの、良くわからないものには近寄らない、という脳の危機管理能力が、変化、改革に対しても恐怖感を引き起こす。
そしてこれが、保身や様子見、つまりなにもしないという態度をとらせて、新しい試みや改革のイニシアティブを押さえ込んでしまい、自己変革は勿論の事、国や企業の変革を妨げる事につながってしまう。
一方で人類が発展したのは、欲望や好奇心により、新しい事や、より良いものを目指して挑戦していくイニシアティブのおかげでもある。
そこでのポイントは誰かが先導者にならなくては駄目だという事だ。
「一頭の狼に率いられた百頭の羊の群れは、一頭の羊に率いられた百頭の狼の群れにまさる。」
ナポレオン・ボナパルトの言葉が重い。
 

                                                                              社長   三戸部 啓之