[ 2019.11.1. ]
268号-2019.11.25
RPAが最近注目されている。これはRobotic Process Automationの頭文字をとったものだ。
つまり、ソフトウェア・ロボットが、業務プロセスを自動化することを指す。
複数のアプリケーションを連携して操作をしたり、表示した画面の内容を確認して入力する作業など、今まで人手で行っていた事務作業を、ソフトウェア・ロボットが代行してくれるものだ。
RPA導入による期待効果としては、主に「事務コストの削減」「ミスのない高品質なオペレーションの実現」「生産性の飛躍的向上」「簡易なシステム化」の4点が挙げられる。
将来、業務の自動化が進めば、既存の人的リソースをロボットが実行した結果をチェックする役割や、人間でしかできない非定型かつ付加価値の高い役割に配置転換することも可能であると考えられている。まさに第四次産業革命といわれる所以である。第一次産業革命では、蒸気機関という素晴らしい発明によって、世界の距離が縮まりヒトとモノがより自由に行き来できるようになり、第二次産業革命は、電力や石油関連技術の普及によって大量生産の時代を作った。
第三次産業革命ではコンピューター技術の発展によって、さまざまな設備のオートメーション化が実現され、今まさに突入する第四次産業革命は、人工知能(AI)、ビッグデータ、インターネット活用による自律的最適化の時代と言える。AIの明確な定義はないようだが、当たり前の機能になったものは除外されていくのがAIの宿命と言われ、従来RPAはAIに含まれていたが、現在は別なものと扱われている。AIの深層学習(Deep Learning)機能が日本語の入力手法として「仮名漢字変換」「スマートフォンの乗り換えアプリ」囲碁の「アルファ碁」など我々の生活に既に入ってきている。パターン認識が得意で「クセ字の判別」「顔の認識」等自ら学習して精度も上がってきている。当社でも事務作業の定型的な「移記」や「データの入力」の自動化から取り入れている。
国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、2010年には約1億2800万人だった日本の人口は、2030年には1億1600万人あまりに減少する。それに伴い2010年には8000万人以上いた生産年齢人口は、2030年に6700万人ほどになり、「生産年齢人口率」は63.8%(2010年)から58.1%(2030年)に下がる。つまり、人口の減少以上に、生産年齢人口が大幅に減るといわれている。
そこで安倍首相が言ったように「一億総活躍時代」にシフトしだしたわけだ。その施策として女性の労働市場への誘導と従来の就労価値観の変更、定年延長や高齢者の労働投入、外国人の労働市場への規制緩和がある。「働き方改革」は硬直的な雇用形態を変え多種多様な人材が雇用市場に参加できるように、労働時間の短縮、副業の奨励、有給休暇の強制取得、最低賃金のアップを計り、老後の年金受給の不安をあおった。これは生産性を上げなければ生き残れないという企業側への最後通告に等しい。更に労働者側にも突きつけられた諸刃の剣だ。現状のスキルではRPAに置き換えられ、今以上に低賃金に甘んじるか、失職を覚悟しないといけないというメッセージだとも考えられる。働く意欲とスキルのある高齢者は「生涯現役」も視野に入れざるを得ない。
この中で我々不動産業界でも遅ればせながら取り組みが始まった。規制法規である宅建業法では契約前に書面による交付を義務付けられていた「重要事項説明書」のパソコンやテレビ電話などを通じての交付を認める社会実験が、2019年10月からスタートした。法制化はまだ先になるが、今まで実店舗での対面でしかできなかった説明がネット上でも可能になった意義は大きい。実験店は全国で59社だが、社員が時間に拘束されずに何処でも可能な点は業務効率から言えばもっと普及してもいいと思うが、IT重説の先にあるIT契約が伴わないとかえって手間が増えるというマイナス面がある。その為当社はその実験に参加していないが、IT契約も可能になった時点で取り入れる用意はある。
業務のIT化が進めばそれに伴い、スマートキー(スマホで内見者に鍵の開錠番号を教え内見終了後ロック)、VR内見(現地に行かないで店舗や自宅で臨場感あふれる体験ができる)の導入も促進されるだろう。入居審査も「カード決済」が主流になり、不動産店舗にわざわざ行かなくても完了することになる。在宅でしかもネットで全て完結する。勿論それなりの法整備が必要になるが、従来のアナログ的業務は大幅に減るだろう。不動産店舗も駅前立地にこだわる必要はなくなり、業務オペレーションは沖縄とか環境の良い地方都市でも十分だし、熟練した現地案内要員、トラブル対応要員が1,000戸当たり数名配置すれば事が済む究極の省力化が可能だ。
携帯端末で数歩進んだ国に中国がある。買い物は無人店舗で、コインパーキング、交通機関の料金も全てキャッシュレス決済だ。駐車違反や信号無視もたちまちスマホに違反の事実と罰金が表示され、口座から引き落とされる。スマホ決済でも先進的だ。
先日の日経新聞に、中国のアリババ集団傘下の金融会社が使っている「芝麻(ゴマ)信用」というAIを活用した信用調査の方法が紹介されていた。通常、金融会社の信用調査と言えば、資産状況やクレジットカードの返済履歴などを調査するが、このゴマ信用はそれ以外にも「ネットを使った購買履歴・ネットを使った交友関係・ネットを使った知人からの信用情報」等々、その人のプライベートな生活データを幅広く取得してAIで分析する。ゴマ信用の点数が高いと融資の条件が有利になるだけではない。ホテルの予約の保証金が不要になったり外国のビザが取りやすくなったりもする。逆に点数が低いと就職や結婚が不利になるとも言われ、生活への影響が強まっているという事らしい。
スコア算出の基準要素として「年齢や学歴や職業など」「支払いの能力」「クレジットカードの返済履歴を含む信用履歴」「SNSなどでの交流関係」「趣味嗜好や生活での行動」の5項目があり、それらを点数化してレーダーチャートで見える化している。スコアが高いほど優遇されるために、利用者はより多くの個人情報を入力し、アリババの分析精度も更に高まる仕組みになっている。
ゴマ信用は個人の信用力を350点から950点の範囲で格付け。評価の制度を支えるのは大量のデータ。アリババでは自社のECサイト(インターネットで商品を売るサイト)やアリペイ(アリババグループのスマホ決済)の利用状況を掴みつつ、学歴や資産、勤務先名が分かるメールアドレス、社会保障の納付状況も自主的に入力してもらう。こうして得た膨大な属性情報や焦げ付きなどについて検証を重ね、評価方法も常に改善し続けている。スコアが600点を超えると、グループ内外の企業による多様な優遇が始まる。住宅賃貸の敷金、ホテル・民泊のデポジットが不要になるほか、家電やスマホが低料金でレンタルできるようになる。750点を超えれば、低利の自動車ローンも使える。アリババはゴマ信用の意義を「信用を守ろうとするほど、メリットが大きくなるため、皆が信用を守ろうとする社会になる」と言っている一方で、就職や結婚にも影響するまでになったことで、利用者から懸念の声も出始めている。学生の金銭面での評価は家庭環境に左右されるとの批判もあり、評価方法への開示も求められ始めている。
また中国では共産党が企業や個人の活動を監視・指導しており、アリペイなどのスマホ決済は、金融当局の決済システムを経由するように改められたり、ますます中国当局の監視体制が強まることにも繋がっている。国家主導型の中国のデジタル革命は、効果的ではあるが非常に怖い側面を感じざるを得ない。
個人情報保護に過度に敏感なわが国では実施は難しいが、世界の流れとして注視しなくてはいけない。その萌芽はある。2013年JR東日本のSuicaの利用データ提供問題、2019年ヤフーが信用スコア事業についての説明不足問題として浮かび上がった。既に行動予測・嗜好予測として日常生活に入り込んでいる。
大手就職サイトのリクナビが、応募者の内定辞退率と属性を企業側に販売した事が大きな社会問題となるわが国では、なかなかハードルは高いが、こういったやり方は、業務フローの効率化になることは間違いがない。
社長 三戸部 啓之