283号-2021.2.25

[ 2021.2.1. ]

283号-2021.2.25

 コロナ感染以後、従来の営業手法が変革を余儀なくされ、非対面型のネット対応が急務になっている。

当社ではネット専従対応部門に8人を配置しており、空室物件を各ポータルサイトやSNSにアップしている。ネットからの問い合わせは月平均750件に及び、その情報は各営業店に配信して対応する事になっている。


成約率は平均15%とカウントされているが、今後その反響件数は大幅な伸びが予想され成約件数の増加も期待できる。当社の賃貸仲介部門では90%がネット経由になり、駅前1階店舗にこだわる理由は徐々になくなるだろう。


 解決しなくてはならない課題もある。それは申し込み後のキャンセル率が非常に高いことだ。対面営業に比べ、安易に申し込み、安易にキャンセルする人が増えている。ネットコミュニケーションスキルのレベルアップで、こういったキャンセルを防ぐことが当社の課題になるだろう。

 いずれにしてもウィズコロナ時代では、3密を避け「非対面接客」が主流になってくる。これは不動産業界に革命的変化をもたらした。人間関係という密な接触で信頼関係を作り、利害関係というよりもシガラミで成り立っていた業界だからだ。

 「親の代からの付き合いだから」「今までよくやってくれたから」という惰性的な心情が仕事の基本になっていた。不動産という特殊な回帰性のない商品を扱う以上、人的な要素は無視できない。しかし、金融商品という位置づけに変わってからは、利回り、キャッシュインカムが重視され信頼という無形の判断から、誰でも客観的に判断できる計量的なものに変わった。つまりビジネスの相手は誰でもよいことになった。人情的な長い付き合いより、実績を重視したプレゼンの有無や巧拙が判断の基準になってきた。意思決定までに「任す→任された」関係だったのが、「任すまでに詳細な資料と市場データ」が必要になってきた。不動産業界はビジネスの基本が、知っている人と知らない人との関係である「情報の非対称性」だったが、情報化社会の中で情報は独占できなくなっている。情報を独占しているプロと情報を持っていない顧客との関係ではなくなっている。情報を持っているだけではビジネスにならないのだ。その加工技術と水面下にある情報を如何に入手して顧客に提案できるかがポイントになってきた。更にその予測性とリスク防止までも業者側の基本的スキルになってきている。

 ウィズコロナ時代ではそれを非対面で提案しなければならなくなった。メールを使いこなし、レポーティングスキルが必要になっている。「頻繁に通って人間関係を作る」ができなくなり、即応的、的確性のある国語能力、表現能力が必要になってきた。文面を理解し適切な返答が相手へのビジネスマナーになった。簡単な事のようだが、日本語の表現、漢字の正確さ、意味を理解する読解力という学校レベルのコミュニケーションスキルが最低限必要になった。文章の書き方や敬語の使い方次第で当社社員の知的レベルを判断されてしまうのだ。低評価になればその物件概要も信用性が低下し更なる補強が求められロスも大きく、成約の可能性も遠のくことになりかねない。

 ネットの怖いのは顧客とのやり取りが全て記録化されているということだ。「言った!言わない!」というトラブルがなくなったが、前後の関連性を注意しておかないと、後々トラブルの種をまくことにつながる新しい問題も起きてきた。書き方も誤解のある用語や文章はご法度で、具体性のある内容が必要となった。更にやり取りに時間が記録されている事が新たな火種になりつつある。問い合わせに即時性が求められているのだ。たとえ時間がかかる案件でも、調べてから返事するのでは遅く、まずその故を告知し了解を得、期日を指定しないと顧客からは評価されないし、ビジネスも継続できない。それも非対面ながら相手の性格を読み判断しなければならない点が辛いところだ。相手とのコミュニケーション手段が電話とメールになっている以上、対面的感覚で進めることは顧客のクレームにつながりかねない。

 相手の反応が直接ビジュアルでわからない覆面的コミュニケーションの中では限界がある為、最近ではZOOMを使った非対面式接客が主体になってきた。これであれば、モニターに相手の表情や反応がビジュアルで理解できる為、コミュニケーションはかなりスムーズになってきた。

 賃貸仲介に必然的に伴う現地案内も極力忌避しだした。動画や画像を基本とし、ある程度の概要を把握してもらい、最終確認としての現地案内という今までとは異なった進行スケジュールが一般的となってきた。

 従来だと、来店前にヒアリングを徹底し、希望に合った物件を選択し、本命物件までの案内ルートに比較しやすい物件やダミーを案内しながら、本命物件でクロージングするという成約パターンがあったが、ウィズコロナ時代では主導権が相手に移ったのだ。相手が事前にネットで抽出した物件を相手の動きに合わせなければならなくなった。ここでという「決め」の場が作れなくなったのだ。
 当社の営業としては、ネット上に載らない水面下の情報や相手の意思決定に比する事実要件の補強量が成否を決することになり、営業としては当該物件の周辺情報表示や単純に案内をするのではなく、現場で疑似生活体験をさせるシーンが必要になった。まさに地域情報のプロ、新生活提案者としての位置づけが求められてきた。AIが普及しても、この個別的コンサルスキルがあれば十分に生き残れることになる。益々社員教育の重要性が認識されてきた。

 IT化の遅れた不動産業界も、国交省がやっと非対面型のIT重説を認めた為、このウィズコロナでIT化に拍車がかかった。コロナ禍が長期化すれば、契約の電子化実施も早まるだろう。そうなれば全て非来店型、非接触型で完結するビジネスになる。
 ただ問題もある。ITを使いこなせない一定の入居者がいる事だ。この顧客に対しては従来型の接客方法しかないだろう。そうなると、全て紙ベースで説明をしなければならないが、顧客優先思考の中では致し方ない面もある。

 そして更にIT化では看過できない点がある。それは入居審査問題だ。これは対面が重要な判断基準になる。話し方、態度、申込書に書いた内容の確認に対する反応等が対面接客の重要な利点だからだ。当社での入居審査落ちは申込者の8%に過ぎないが、書面審査だけだとかなりの不良入居者がスルーする可能性がある。以前あった例だが不良入居者ほど書類は完璧になっている。準備する書類もすぐ整えるし形式上入居審査は通りやすいのだが、入居後に問題入居者として手こずることになる。滞納予備軍は書類審査である程度予防できるが、モンスタークレーマー等は排除できない。モンスタークレーマー程悪質ではなくても、騒音に過敏だとか、共同生活上のルールを守れない入居者もいる。勿論、そういった入居者の対応は管理会社の定番の業務だが、事前に排除出来たらそれに越したことはない。

 今回賃貸仲介に限ればIT化に遅れた不動産会社は仲介件数が激減したと聞いている。ウィズコロナ時代では、従来の対面営業を主体とした営業姿勢ではビジネスとして成り立たないのは明白だ。神奈川でも不動産会社が9000社ある中で、アフターコロナの頃にはかなりの数が淘汰されるかもしれない。

 そして、昨今特徴的なのは退去動向だ。例年だと月平均70件の退去があるが、今回のコロナ禍の影響で50件に落ち込んだ。人々の動きが止まり、住み替えが減少した。当社は幸い入居率が97%以上確保できていたので有難いのだが、反面退去が少ないという事は市場に出回る物件が少なく、仲介部門としては対象になる物件がないという事になる。これからは仲介件数の多寡が仲介会社の経営を左右する課題になるので、管理受託の強化と媒介物件の取得強化が激化するだろう。それらの業務を社員に兼任させている不動産会社は、益々社員の労務負担が増え、離職を促し経営資源は枯渇していき、不動産会社の淘汰に拍車がかかる事になるだろう。

                      会長   三戸部 啓之