[ 2021.10.1. ]
291号-2021.10
6月より75歳以上の高齢者からワクチン接種が始まったが、コロナ禍の収束が未だ見えない。
更に困った事には、コロナウィルス変異株の流行だ。イギリスで蔓延した新型コロナの変異株(N501YV2)は従来型(COVIT-19)より感染力が1.32~2.4倍もある。渡航の制限がある中で、どうして急激に日本に伝播したのかは不明だ。マスコミも当時は原因究明を避けていた。
それに加え、さらに強力な感染力を持つデルタ株(インド)が日本にも上陸し猛威を振るい、ガンマ株(ブラジル)、ラムダ株(ペルー)も出始めた。更に9月にイータ株も日本国内で報告された。変異株は次々と発見され、さらなる脅威が襲ってくる可能性がある。
2021年8月、有効な抑止効果が見えない中で、第5波の感染拡大が起こりはじめた。ワクチン接種も8月末までに15歳以上64歳以下の対象者に可能だという事だったが、7月に入り国内での供給不足が懸念されてきた。原因はキャンセルが増え自治体ごとに割り当てられたワクチンの破棄問題が起こり、ワクチン量の不足が目立ってきたことだ。その為、従来のファイザー製に加え、モデルナ製とアストラゼネカ製が加えられた。アストラゼネカ製は血栓が起きやすい副反応がある為、国内では接種が見送られ、台湾、インドネシア、東南アジアに無償提供された。先行した中国製ワクチンによる途上国を含めたワクチン外交に対抗するためにとられた措置だった。ところが中国製ワクチンは接種効果が20%以下というデータが出てきて、おっとり刀で追いかけた日本外交に久々の得点になった。有効なコロナ感染抑止策がとれない中で、ワクチンの2回接種では完全ではなく3回接種になる事態も言われ始めてきた。抜本的抑制策は集団免疫と治療薬の投与を待つしかないだろう。
1年前に欧米の感染者が数万人単位で感染し、死亡者数も従来の予想をはるかに超える数が発生していたが、日本では当時感染者数も少なく世界の不思議と言われたものだ。「ハグや握手の習慣がない!」「BCGの予防接種をしていた」「日本人は清潔好き」「人種的優位性」「社会保険制度」とか色々言われていたが、結局PCR検査の総数が少なかったことが判明しお粗末な結果になった。8月は多い時で1日25000人を超える新規感染者が発生し、国内感染者数の累計は1ヶ月で57万人増えて150万人に達した。再度にわたる緊急事態宣言や蔓延防止措置により事態の収拾を図っているが、欧米諸国のような私権制限を伴うロックダウンができない中で、経済活動の規制はボディーブローのように企業の存続を危機に陥れている。
この中で東京オリンピックが強行された。セクハラ発言での辞任等、大会関係者のゴタゴタが開会式直前まで起こり、開会式も無観客で行われた異常な幕開けとなった。1年遅れの2020年度東京オリンピックが7/23~8/8、パラリンピックが8/24~9/5までの約2ケ月弱の開催だった。6月に来日したウガンダの選手2名がコロナウィルス感染者だと判明した事を初めとして、その後も選手を含めた大会関係者の感染は止まらず、出場停止も出てきた。
ともあれ日本のメダル数は過去最高の58個となり、開催国の面目躍如という評価になった。肝心の総経費は当初7000億円と言われたが、延期もあり予定された総額1兆6500億円を超える3兆円にもなるという。コロナ禍での開催の是非、これだけの経費をかけて開催する意味があるのかと問われたオリンピックも珍しいし、これ程国民に盛り上がりがない大会もない。更に誘致に対する
ロビー活動やIOC委員に対して10億円近いリベートが動いたとされている。かつてはオリンピック景気と言われ、公共投資が集中的に行われ景気浮揚策としてのメリットはあったが、今は負の側面ばかりが目立つようになっている。コロナ禍での開催強行は無観客会場も多く、入場券や関連商品売上、広告収入も大幅に減収し、当初の見込まれた収支は大幅に赤字になる事は間違いがない。
夏季オリンピックを強行したのには、米国メディアの力学が働いている。この酷暑の日本の夏に開催するのは、米国ではこの時期メインスポーツの中継がないからだと言われている。秋からはMBL(メジャーリーグ野球)、NBA(バスケットボール)が始まり、涼しい秋口だと人気のスポーツとの競合が起こり、広告収入が少なくなるからだ。
最大のスポンサーであるアメリカテレビ局の意向はオリンピック関係者として無視できない。そのしわ寄せが選手不在の酷暑の夏に開催されることになり、酷暑の中での競技は想像を絶する過酷なシーンになった。
例年以上に途中棄権するアスリートが多く出た大会も珍しい。多くの番狂わせもあった。大会終了後の選手のマナーの悪さや風紀の乱れも指摘された。国際問題に発展する選手の亡命も出た。ともあれ様々な話題と課題を残しオリンピック・パラリンピックは終了し、2024年のパリ大会へとバトンタッチした。宴が覚めた国内の現実は虚無感が漂っている。
9月には、突然菅首相が退陣表明した。令和3年の予算はコロナ対策も含め合計106兆円にも上る過去最大なものだ。歳入の倍に近い金額だ。この資金の捻出方法として増税を考えると、その主な徴収先は富裕層にならざるを得ないが、それも限界がある。消費税増税と景気の悪化によるデフレは今迄のデータからもはっきりしており、ポスト菅政権がいかに緩慢なインフレに誘導するかにかかっている。
2021年9月9日発表の帝国データバンクのデータによると、新型コロナウィルスの影響を受けた倒産〈法的整理または事業停止(銀行取引停止は対象外)、負債1000万円未満および個人事業者を含む〉は全国に2025件〈法的整理1876件、事業停止149件〉確認されている。しかしこれらはコロナによる経営危機とは言えず、それ以前に経営状況が悪化しており、コロナによりその脆弱性が現れたとみることができる。業種別では「飲食店」(341件)が最も多く、建設・工事業(204件)、ホテル・旅館(109件)、食品卸(105件)が続く。特に飲食店のほか、アパレル業や食品業への影響が目立っている。不動産業はコロナの影響は未だ少ないが、WEB化と働き方改革の荒波が迫っている。
緊急事態宣言下で、テレワークの実施率は大企業では45.5%に達しているのに関わらず、中小企業では15.2%に過ぎない。業種別の差も埋まらなかった。テレワークの導入が比較的容易な情報通信業は60%、現場作業が欠かせない医療、介護、福祉では5.4%、運輸・郵便業では11.1%にとどまり、当社では正社員の27.5%(8月末現在)にとどまった。大多数の不動産業者ではテレワーク自体の対応も殆どないし、WEB化の遅れは目を覆うばかりだ。働き方改革がなかなか進まないのは、欧米のようなJOB型雇用ではなく、日本で標準的なメンバーシップ型雇用では、上司が継続的に指示を与える「マイクロ・マネージメント」で、出社を前提とした働き方になっているからだと言われている。
不動産業界もニューノーマルの働き方改革の取り組みは遅れている。国交省の規制下にある業務は対面が当然とされIT化の遅れは否めなかったが、コロナ禍が契機となってIT化が一気に推し進められたこととなった。
先進的企業は既に取り入れているが、募集データ入力(RPA)~ 集客(SNS、PF)~ 反響 ~ 内見(VR内見) は法規制がないため、弊社も含め部分的ではあるが取り入れる企業も増えてきた。
規制緩和により、申し込み ~ 重要事項説明 ~ 契約 ~ 入居 までの業務の大部分がWEB化されることになり、利用者の利便性も高まった。入居者側も対面を避けリモートを望む人が増えてきている。当社では契約者の80%がWEB重説を希望し、内見もせずにデータのやり取りのみで成約に至るケースまでも出てきた。内見する場合も自動車に同乗するケースが減り、現地待ち合わせ解散が普通になった。それだけ事前の情報のやり取り如何が成約率に影響している。今までのような接客方法やアプローチは通じなくなった。当該物件のビジュアル化した情報量と周辺環境のデータが大きく左右する。静止画だけでなく動画も有効で、スマホで閲覧できることが条件となる。クチコミも業者の判断基準になり、評価が3以下の会社は検討する土俵にも上がらなくなった厳しい現実がある。しかし、デジタルデバイド(情報格差)による高齢者等のアプローチは課題があり、当分アナログ的接客との併用は避けられないだろう。
会長 三戸部 啓之