[ 2022.2.1. ]
295号-2022. 2
一つは仕事で求められるスキルを学んだり、資格を取得したりするための教育だ。
スキルやノウハウに関してはOJTで学ぶ、社内で評価基準を決めてレベルアップするなど、色々なやり方がある。
当社で言えば新卒新入生の基礎教育、3年生を対象にした初級・中堅教育、主任昇格者を対象にした「会長塾」があり、其々、公的資格の取得と、研修、課題図書を課している。
新卒の基礎教育は、入社後30日間は会社概要に始まり、社会人としてのマナー、行動、意識に始まり、各セクションの概要を数日間かけて実施する。その後実務研修として14日間其々2~3課を経験させ、適性を見て8/16~11/30まで研修配属させ、再度ヒアリングをして12/1~5/31迄仮配属、更に適性を見て6/1~は基本的に3年間本配属とする。
その間、所属部門にかかわらず宅建・賃貸不動産経営管理士の取得に挑戦させる。この資格自体は決して難易度の高い資格ではないが、営業職は実務に入ると中々短期間での合格は難しいようだ。
資格に関しては、最終的には本人の頑張り次第だが、社内で勉強会を開いたり、会社で補助を出したりしているが、効果は芳しくない。
一方で、社員に考える力を身につけさせたり、チーム力をアップしたりという教育もある。
経済産業省では社会人基礎力として
①前に踏み出す力(アクション)
②考え抜く力(シンキング)
③チームで働く力(チームワーク)を掲げているが、まさに仕事の基盤になる部分と言える。
前者のスキルや資格がアプリだとすれば、後者の社会人基礎力はOSに相当する。パソコンではOSに不具合があるとアプリが動かない。同じように社員教育においても、スキルや資格の教育に力を入れる割には期待していたほどの効果が出ていない場合、OSに相当する社会人基礎力の教育のやり方を見直すことで効果があるといわれる。
当社でも「お勉強大好き社員、資格大好き社員」がおり、知識はあるが実践ではうまく発揮できない社員もいる。資格だけでは「足の裏についた米粒」と同じで、とっても食えないのだ。
ある和菓子メーカーでは、考える力を社員に身につけてもらうことに力を入れている。例えば、直営店舗の社員に対して「いらっしゃいませ」や「ありがとうございました」と言わずに、お客さんに感謝を示すには?という問いを投げかけている。
マニュアルを作って、マニュアル通りに「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」と言うのであれば、小学生でもできる。けれども、マニュアル通りの対応がお客さんの心に響かないのは、誰しも経験しているところだ。
これにはマクドナルドの有名な逸話がある。お客が窓口でハンバーガーを数十個注文した。店員はマニュアル通り「店内でお食べになりますか?お飲み物はセットになっております。お持ちしますので、席で少しお待ちください」と話した。
常識的に考えればこの客は、勤務先の社員に頼まれて大量のハンバーガーを買いに来たはずで、店で数十個も一人で食べる筈がない。言われたお客はこの応答を聞いて相当面食らっただろう。
米国社会はマニュアル社会と言われる。教育レベルも相当違い、人種の多さもあり、画一的なマニュアルを作らなければ業務が進まないと言われている。短時間に一定の成果を上げるにはそれが必要なのだ。
反面、日本ではある程度の教育レベルの国民がおり、米国のような画一的マニュアルは不要とされていた。しかし最近では若者の言葉が相当乱れ、基本的な対人関係上の言葉のやり取りも不安視され問題になっている。
躾がなされていないから若者だけの責任とは言えない。入社時にも多くの企業が、小学生レベルのあいさつの仕方、ビジネス文書やメールの出し方を教育している。
欧米の企業から見たら、失笑を買うようなレベルの教育がなされている。そこで企業側として接客マニュアルやビジネス基礎マニュアルを作り早期の戦力化を図っている。
以前ある学者が「一億総幼児化」と言っていたが、世界的な常識から見れば日本人はそのレベルからビジネス戦線にスタートしているから相当のハンデがある。まして日本特有の「パワハラ規制」「総労働時間制」があるから「鍛える」には雇用側は及び腰だ。
大手新聞社を含めたマスメディアは「ブラック企業の最たるもの」だが、何処も指摘する強者はいない。彼ら自身は蚊帳の外にあり、他業種に対しては踵を返して糾弾する。
BCG(ボストン コンサルティング グループ)等世界的なコンサルタント会社なども同様で、年間労働時間は3000時間が当たり前だ。
有名な弁護士事務所でも『アソシエイト弁護士にとって上司であるパートナー弁護士の言うことは絶対で、1・2年目は奴隷のように働かされます。顧客に対してタイムチャージで請求するため、長時間労働は当たり前。年に2000時間はマストで、目標は3000時間。それ以外にも勉強や業務はあるので、最初の数年は自分の時間がほとんど持てません。さらに、日本と違って「こいつは使えない」と思われると即クビ。高給の代わりに競争は激しいのです』と言われるように世界ではこれが常識だ。
こんな土俵で戦わなくてはならないビジネス戦線で勝敗は既に明らかだ。ひ弱な温室育ちの日本人が世界で戦えるはずがない。
振りかえれば、マニュアル化に生理的拒絶感がある一定の人たちがいる。戦前戦中の軍国主義教育の反省からだ。その失敗の歴史がトラウマになっている。上意下達と画一的教育だ。欧米との違いはマニュアル化する事が「生産効率を上げる」事であるが、日本では「従属させる」方法としたことだ。
敗戦後その反省から、占領軍から自由主義と個人主義が与えられた。自由闊達な思考を育むためには個人の尊重が必要という事になった。
自由には責任という観念があり、個人の尊重には他人も尊重するという観念が裏付けられているはずだが、一方の側面だけが強調されてきたため自由をはき違えた自己愛だけの人間が多数輩出され、義務を忘れた「烏合の衆」となった。
大量に輩出された彼らは「宇宙人」「異邦人」とか呼ばれたが、社会のあらゆる部門で不合理が問題視され無視されなくなってきた。このまま座視する事は企業の命運にかかわる事で、様々な企業で変革が起きようとしている。
身近なところから顧客志向に取り組んでいこうとマニュアル一辺倒ではなくお客さんに感謝の気持ちを伝えようとすれば、一筋縄ではいかない。
まさに自分の頭で考える → 考えたことを実際に行動に移す → 反応を見て検証する → 改善点を考えて再度やってみることを地道に繰り返す必要がある。
だから顧客に対して「自分の価値を言葉にする」ことを常に考えてもらう事が必要だ。
「価値」と言えば「強み」のことだと、自分の強みや長所を言葉にする人がいる。しかしながら、「価値」とは①自分がやりたいこと、②自分ができること、③誰かの役に立つこと、という3つの要素を備えている必要がある。自分がやりたくて、かつ、できることならばすぐに頭に浮かぶ。けれども、それが「誰かの役に立つのか?」言い換えると、そのことに対して「誰かがお金を払ってくれるか?」となれば、すぐには思いつくとは限らない。
これからはスキルや資格など、アプリの部分だけでは差をつけるのが難しくなる。
一方、考える力などOSに相当する部分は日々鍛えている人とそうでない人では益々大きな差が生まれてくる。
考える力を身につけさせるには「どのような問いをするのか」が鍵を握っている。
会長 三戸部 啓之