300号-2022. 7

[ 2022.7.1. ]

300号-2022. 7

 社員の採用にあたって従来とは違う制約が色々と出てきた。

 就職情報会社が次々と仕掛けている。新卒市場だけでなく、転職市場の開拓にも力を入れている。



 新用語も次々と出ている。フリーターという語彙もリクルートが生み出した。キャリアアップ等新しいキャッチコピーが独り歩きし、本質の究明を遠ざけてしまう危険がある。面接の仕方、答え方、履歴書の書き方等も微に入り細にわたる。応募者は万全の態勢で臨んでくるわけだ。反対に採用側は判断データが少ないから、アナログ的に応対しているだけだ。


 履歴書の内容も家族関係、その勤務先、地位、年収、本籍地等判断するための関連事項もストレートに聞けない。特にコロナ禍での面接もZOOMやリモートですることが多く、更にマスクをしている為、表情の変化を見ることも難しくなっている。

 勿論それを補うために、心理テストや性格テストも併用する。当社でもそれらを含めると、営業社員一人当たりの採用コストは80万、同事務職は30万になる。期末になって内定辞退のメールで断られたら目も当てられない。加えて戦力化するまでの期間コストとして3年を考えれば一人3000万のコストであり、退職でもされればその損失はバカにならない。それを考えればマスコミが喧伝するような「ブラック企業」なんて存在するのか首をかしげる。企業側はいくらボンクラでも解雇できないのに、被用者側は何時でも好きな時に退職できる世界だ。

 そもそも「ブラック企業の定義」が益々拡大解釈されている。元々奴隷的拘束下に従業員を縛り付ける、労働との対価に正当性がない企業がブラック企業と言われていたはずだ。最近はコンサル業界で世界的有名企業であるアクセンチュアが法定の40時間を超える違法な時間外労働で摘発された。いくら高給であってもブラック企業と認定されたわけだ。就職希望ランク上位の電通もそうだった。


 以前、リクルートが「内定辞退率サービス」を企業に提供していた事実が、個人情報保護法に抵触するという事で勧告を受けたことがある。企業側からすれば当然欲しい情報であり、情報の非対称性をついたリクルートらしいビジネスだと感心した。このサービスを使う企業は大手であり人気就職ランキングでも上位に位置する企業であろう。優秀な学生が押しかけ内定率も高く、学生側の選択幅が多いに違いない。企業の人事戦略からなるべく辞退数を抑え内定学生を確保したいはずで、理にかなった行動だろうが、さんざんマスコミに叩かれた。官庁のように公費をかけて身辺調査をすることもかなわず、書類と面談で判断するしかないので、どうしても甘くなる。相手も十分に面接技法を訓練しているから猶更だ。

 よく聞く内容で「愛読書は?」がある。応募の履歴書にも殆どが書いてある。かつて思想傾向を調査するために聞いたが、最近は本当に読んだのか、関連読書を聞くためだ。
 現状の若者の一日の過ごし方を見ると、テレビゲーム…26% ・楽器…21% ・スポーツ…18% ・教育…4% ・知的専門職…1%というデータがある程、読書をしない若者が増えた。読書をしない若者は、漢字を知らない、語彙が少ない、読解力がない、文章が書けないので、ビジネス文章も心もとない。しかし、企業の採用選考の面接で「愛読書を聞く」ことは、能力や適性に関係がない質問だとして「NG」とされるが、滋賀県教育委員会の高校生対象の独自調査で、愛読書を尋ねた事例が昨年度は前年度の3倍近くに増えたことがわかった。コロナ禍の「巣ごもり」で本を読む機会が増え、趣味を「読書」と答える生徒が増加したことが背景にあるとみられる。しかし「漫画」も読書と考える若者も増えたのには驚愕する。

 高校生の就職活動が続く中、厚生労働省は企業側に注意を促している。採用側が能力や適性に関係ない事柄を質問することは就職差別につながる恐れがあるのは理解できる。厚生労働省はホームページで、両親の仕事などの「家族」、愛読書や尊敬する人物などの「思想信条」に関することを不適切な質問として例示し、尋ねないよう呼びかけている。

 先の県教委は「就職差別を防ぎたい」として、高校生が採用活動で受けた質問を学校側が聞き取り、不適切な質問を毎年調べている。2016~19年度の不適切な質問数は30件台から40件台前半で推移し、身元調査につながるものが目立っていた。昨年度は37件で件数自体はあまり変わらなかったが、愛読書に関する質問が20件と過半数を占め、19年度(7件)の3倍近かった。県教委は「趣味を『読書』とする回答が増え、採用側がつい愛読書を聞く傾向にあるのでは」と分析。「どんな本が好きかは個人の自由で、採用選考に持ち込むべきではない」とし、生徒には「答えなくて良いと聞いている」などと対応するよう指導しているという。

 高校生の企業による選考開始は9月中旬に解禁。厚生労働省によると、高校生や大学生らが各地の労働局に寄せた不適切な質問に関する相談は毎年1000件前後に上る。厚労省は「聞きがちな内容も多いが、質問自体が精神的な圧迫を与える恐れがあり、意識を改めるべきだ」と指摘。学生には「質問の意図をやんわり確認するなどすれば、話の流れが変わるのでは」と助言する。

 馬鹿な話だ。この指導自体多くの経営者は首をかしげるのではないか。採用側としては、この若者が「当社の社風に順応できるのか?」「当社の業務を遂行できる基礎スキルがあるのか?」「挑戦意欲があるのか?」「チーム構成員として妥当か?」を見ているわけで、それに関係のない「宗教、信条、性別、生まれ」は勿論除外している。家族環境を聞くことは育つ背景を推認しているし、学生時代何をしていたかも、判断材料になる。面接は総合判断でわずか30~60分で上記の項目を判断している。

 厚生労働省大阪労働局も就職差別につながる恐れのある不適切な質問の例として例示があり、①本籍 ②住居とその環境 ③家族構成や家族の職業、地位、収入 ④資産 ⑤尊敬する人物等とあるが、どうだろう?人物本位で採用しろという趣旨は理解できるが、その人物の背景や動機、内面的心理は採用する側にとって重要な判断要素になる。

 電子部品大手である日本電産のカリスマ会長、永守重信氏は去ってほしい社員のタイプとして、①知恵の出ない社員、②言われなければできない社員、③すぐ他人の力に頼る社員、④すぐ責任転嫁をする社員、⑤やる気旺盛でない社員、⑥すぐ不平不満を言う社員、⑦よく休みよく遅れる社員を上げている。IQなどによる能力の差は、どんなに頭が良くても普通の人のせいぜい5倍ほど。一方EQ(心の知能指数)の高い社員とやる気のない社員を比べると、仕事で100倍以上の差が生まれることがあるという。

 そして『誰しも人を使えないといけない。組織と言うものは階段を上っていくもの。いくら頭が良くても、人を使えなければ上には立てない。従業員10,000人の会社でも社長は1人。平社員であれば頭が良い人間が勝つ分野もあるけれど、経営サイドの頭は関係ない。IQで経営はできない。私の欲しいのは、玉露のカスよりも番茶の上等だ!』と喝破している。

 これらを判断するには様々な角度から話し、聞くことでしかできない。試用期間を認めその間にスキルと適性を見、向かないならば解雇も自由なら問題はない。厚生労働省の指導を正面から受けていては、その企業にとり必要な人材は採用できないのは明白だ。雇用責任とそのリスクは誰が最終的に追うのかに尽きる。

                               会長  三戸部 啓之