301号-2022. 8

[ 2022.8.1. ]

301号-2022. 8

 第34期下期が終了した。丁度、社長という第一線から退いて1年が経過したことになる。その意味では後継社長の第一次試験結果を問う事になった。これは引継ぎ期間ともいえるし、一番後継者が頭を悩ます時期でもある。創業者である私の残滓という垢が、あらゆる部署にしみついているからだ。

 中々後継者が自分の考えや方針を明確に出せる時期ではなく、遠慮がちに、リーダーシップをとっていかざるを得ない。まして、院政を敷いているように感じる現行の組織では、中々かじ取りが難しい。

 まだまだ全面的な移譲は難しいが、高額の出金を伴う案件や、新規事業は一応承認事項としている。コロナ禍でここ数年のDX推進(デジタルトランスフォーメーション)の変化は著しい。カタカナ語が多く昭和の頭脳では中々ついていけない事もあり、全面的にソフト・機器の導入は一任している。 

 
 この一年を振り返っても、長男は思いつき志向の猪突猛進型、次男はじっくり考える長期決戦型の性格がよく出ていた。それを踏まえて長男はアーバン企画開発、次男はアーバン企画開発管理と別けたわけだ。一時的な混乱や動揺もあったようだが、決算数値を見る限りどうにか収まったようだ。

 アーバン企画開発とアーバン企画開発管理の2社合計で第34期売上高は44.3億、経常利益1.5億で、昨年対比売上高で105%、経常利益119%だった。ただ懸念材料もある。経常利益率が3.0%-3.4%と極めて低い点と売上高が横ばいに近いからだ。

 2021年度の東京商工リサーチのデータによると神奈川県内での賃貸仲介・管理部門で業者数は2737社あり、アーバン企画開発は売上高で61位、アーバン企画開発管理は39位となっている。労働生産性を見ると、社員一人当たりの売上高は、アーバン企画開発142万、業者平均売上高225万、アーバン企画開発管理は371万、業者平均435万となっている。これは極めて効率が悪い経営をしていることになる。また、経済産業省の令和3年中小企業実態基本調査速報によると、一企業当たりの売上高は2019年度5443万、2020年度5361万で前年比▽1.5%、従業員一人当たりでは夫々928万、1056万、前年比13.8%増となっているが、これは分譲業者も入るため直接比較はできない。しかし全体の景気トレンドを見る限り有効だし、効率性の判断にはなるだろう。

 それを裏付けるように、粗利を人件費で割った当社の労働分配率は60%と極めて高い。一億円の粗利があったとしても6000万は人件費に消えているということだ。業種的にも人的資源によらなければならない業種では仕方がないともいえるが、これは会計指標からは問題になる数値だ。業務内容のわりに社員数が多いという問題で、成果に結びつかない無駄な業務が多いということでもある。この辺はIT化の促進や、アナログ処理の削減も課題になり、業務重複や棚卸が必要だろう。
手を抜くということではないが、自分の業務をムリムダの視点から見直すことが必要だ。その為、業務改善提案として半期に一人3件の改善事項を課している。半期で450件、年間900件以上の改善提案があり、エンドレスで向き合わなければならない。それは社内で『アーバンボイス』として取り上げているが、まさに自分の足元には改善事項がたくさんあるということでもある。

 当社は「入社したくなる会社を目指す!」を標榜している。業界で一番の好待遇会社を目指そうとしているので、通常の会計指標での労働分配率はあまり気にしていない。まだまだその目標には届かないが、一応の指標として年齢×20万=年収を目標にしている。30歳で600万、40歳で800万になる。そして70歳までは本人の希望する限り雇用するつもりである。勿論誰彼となく適用するものではなく、「会社に貯蓄がある人」を指す。

 「会社に借金のある人」は、存在することで益々会社の財務を毀損することになるので、早めに卒業していただくことになる。幸いにも当社にはそのような社員は現在いないので、70歳雇用は実現できると思われる。現実に当社の在籍している社員で、最高齢66歳以上1名、61歳から65歳は6名、56~60歳までは10名であり、現役でバリバリ活躍している。

 56歳以上の社員構成比は17名、11.1%に及ぶ。男女構成比は女性が81.8%であり、若い社員と比べても全く遜色がない。男社会と言われた不動産業界で最近女性の進出が著しいが、当社でもそれを裏付けている。

 労働生産性以外も販促関係費用がバカにならない。賃貸住宅供給過多の状態が過去十数年続く中、一件当たりの広告費用は、入手する仲介手数料の25-35%にもなる。リクルートのSUUMO他ポータルサイトの掲載は最低限必要だし、内容の更新も頻繁に必要だ。さらに最近はTwitterや Instagram、ホームページも疎かにできない。

 入居希望者は事前に様々な情報ルートから物件情報を仕入れて判断している。当社でもネット反響数は年々増加しページビュー(PV)は月30,000である。各拠点毎のスタッフブログやGoogleマイビジネスで悪質な口コミを監視する体制など、従来の不動産屋の感覚では対応ができない。
その為、当社ではネット担当として川崎地区8名、横浜地区4名を配置して専従化している。
昭和時代の不動産屋は「車と電話があれば簡単にできる業種」と揶揄されたが、令和に入ってこの自虐的な言葉も聞かれなくなって久しい。

 不動産業界では令和に入って2つの大きなトレンドが押し寄せている。一つはKKDと言われた「勘、経験、度胸」に、M:マーケティング、I:インターネット知識、C:コミュニケーション(MIC)が加わった。もう一つは少子化を踏まえた社員教育の充実だ。

 昭和の営業のような「俺の後ろを見て覚えろ!」では通用しなくなった。彼らは自分のキャリアアップのために今の仕事をしているので、会社を踏み台にしている傾向が強い。我が国の雇用を支えた終身雇用も早晩なくなるだろう。その為にも彼らにとって意味ある職場が必要になる。経験が自分のスキルアップにつながる業務を与えることと、それを可能にする知識教育だ。そこで、先の新社長交代と同時に会社の理念が「入社したくなる会社を目指す!」になった。少子化を踏まえ社員を「人的資源」とみる発想だ。

 平成時代は「企業はだれのものか?」という問いが頻繁に出され「株主主権」が経済界を席巻した。モノ言う株主の登場だが、行き過ぎた投資家からの意見が企業の短期的視点経営を余儀なくされた。長期的視野の経営ができなくなった振り戻しが令和の時代になって起き、社員重視の考え方に変化した。粗利の1%以上を教育投資に向けるという会計指標も出てきた。会長マターとして内外部講師を含めた管理職、中堅社員、新人教育を実施している。もはや不動産屋から会社組織の運営が求められる時代になったのだ。不動産業界も普通の会社になってきたということでもある。

 遅ればせながら、マーケティングは借り手市場になって初めてその必要性が言われ始めた。マーケティング先進企業である花王や外資のP&Gのように当業界でも、消費者参加型の新製品開発の取り組みを目にすることがある。部外者の協力を得て、企業が新たに商品価値を作り出したり、顧客の体験価値を高めたりする手法を「コ・クリエーション(価値共創)」と呼ぶらしい。それには「外から内への型」と「内から外への型」がある。前者は、売り上げはゴールではなくスタートと考え、購入した後の商品体験に企業が関与するもので、後者は顧客の位置を従業員のレベルまで組織的に高める。参加する消費者を新商品開発などの企業プロセスの内部に取り込むことで、顧客との関係性を強化し、新しい視点を製品、サービスに取り入れることができるというわけだ。

 当社でもS短大やM大学の建築学科の学生諸君と共創したり、インターシンップ生によるアドバイス、入居者アンケートを社内にフィードバックすることなど遅ればせながら始まっている。少子化を踏まえ市場が縮小する中で、本来企業がやるべきことをやらなければ企業の存続は危うい。コロナの終息が見えない中、益々企業経営の真価が問われる時代になってきた。

    会長  三戸部 啓之