325号-2024. 8

[ 2024.8.1. ]

325号-2024. 8

2024年7月31日をもって代表取締役会長を辞任した。8月1日からは相談役となる。加えて「合同会社ゆいまーる」の代表となり、社員教育を専門にすることになった。それを契機に「会長の独り言」から「オヤジの伝言」に変えた。役職は外れたが、最大株主としての会社経営の行く末は従前と同じく目を光らせるつもりだ。それは、会社を継続発展させることで、当社の最大基盤である顧客の満足度を維持することだ。しかし頭では理解していても具体的な日常行動に落とし込むことは中々できていないのが現状だ。

礼儀、時間厳守、報告、連絡等の基本動作10ヶ条を身に着けさせる為に、今回「ゆいまーる」を設立し違う角度から徹底しようとした訳だ。

代表取締役社長を辞任し会長に就任したのが、2020年12月であるから後継社長の経営方針やその実行力を4年見ていたことになる。年齢的にも長男のアーバン企画開発社長が53歳、次男のアーバン企画開発管理社長が46歳となれば年齢的には十分譲位は可能なはずだ。

しかし、まだまだ不満もある。社員総数160人といえば、軍隊でいう中隊クラスだ。官位でいえば中尉か大尉クラスになる。その官位では戦場の最前線にいるはずだ。軍官僚でいえば陸軍の参謀本部や海軍の軍令部勤務は、陸大や海大の卒業順位5番以内のエリートになり官位は中佐、大佐クラスになる。

中小企業ではそれなりの組織ができると、往々にして錯覚し社長が現場から離れ、軍官僚並みになりやすいことだ。つまり現場から離れてしまうため、顧客の不満シグナルや矮小な問題点を拾うことが緩慢になってしまう恐れがある。すべてが部下任せになってしまう。

組織の階層があればあるほど担当者➡部門リーダー➡総括リーダー➡社長となれば、まさに伝言ゲームだ。時間的にも内容的にも実態とは大違いの現状認識になり、それに対する指示や判断もおかしくなる。

現場の情報を適時的確に把握することがポイントになるが、周辺情報にアンテナを張って常に情報の変化をとらえなければ指揮命令がおかしくなる。この指摘は言葉で理解していても日常業務の中ではおろそかになりやすい。

 

戦前期の帝国陸海軍でも同じような陥穽に陥り、戦術的な間違いを犯したことは、あらゆる著作で指摘されている。さらに重要なのは痛みが理解できないから人命軽視につながったことだ。当時の召集令状が赤紙一枚5銭といわれたため、人間の命が5銭並みに扱われたことだ。だから、玉砕戦法や特攻隊が美名のもとに敢行された。高性能を図ったゼロ戦もパイロットの保護板は軽量化のためになくしていた。

戦闘初期には大きな戦果を挙げたが、米軍はゼロ戦の1000馬力エンジンに対し2000馬力のグラマンヘルキャットを開発し一撃離脱戦法を取りパイロットを狙い撃ちにしたため、確たるゼロ戦もめぼしい戦果はあげられなかった。新たな開発ができない程、技術力、国力の差はあった。だからこそ資源が乏しい中では資源の集中化が必要だったが、陸軍と海軍では兵器の仕様が異なるとか量産化には程遠いものだった。戦国時代でも1万人の兵員の後には補給をする荷駄部隊が数キロにわたったという重要な戦訓も昭和の軍隊には軽視され、輜重部隊といわれる輜重兵は食料や弾薬を運ぶ部隊であり、今風に言えばロジスティックだ。我が業界で言えば営業をサポートする顧客情報や入居希望情報の提供にあたる。大和魂を強調した精神主義が横行し、攻撃のみで兵站軽視の思想だったし、先例踏襲型の戦術もお粗末なものだった。総力戦思想は掛け声だけで本当の意味を理解していたかは疑わしい。以上の歴史的教訓から学べることは3つある。

 

一つは「三現主義」だ。机上の空論ではなく、実際に現場で、現物を観察し、現実を認識したうえで問題解決を図る事を言う。担当者の報告は「事実のみ」に抑えることが必要だ。そうしないと担当者の意見や予想が入りバイアスがかかる為、上位者の的確な判断がゆがんでくる。少しでも疑問を感じたら自ら現場に立ち、顧客の話を直接聞くことが必要だ。過去の例を見ると全く異なる状況になっていることも多いからだ。テレビドラマ「踊る大捜査線」でおなじみのセリフ「事件は会議室で起きているんじゃない、現場で起きているんだ!」の感覚が必要だ。すべてのカギは現場にある。手間暇を惜しまず、まず現場に直行せよ!そこで自分の目と耳で確認せよ!事実関係が明確になる。入居者やオーナーとの意見の食い違いも、直接お会いして前後関係を整理すればトラブルの真因が明確になり解決策も意外とはっきりする。これを怠るとどうしてもタイミングを逃してしまい、「病膏肓」になって信用を失うことになる。社長を含めリーダーは常にこの点を忘れないことだ。

 

二つ目は「ほうれんそう」だ。報告、連絡、相談は基本中の基本だが、中々日常業務中でキチンとできる社員は少ない。報告や連絡が遅れたため対応が遅くなり、大きな損害や信用失墜結果になることがある。自分の都合ではなく相手に都合に応じた「ほうれんそう」が求められるのだ。それに伴う期日管理も大事になる。顧客から依頼を受けても納期日を言わないことも多い。相手からすれば納期が不明なほどイライラが募ることもあるはずだ。こまめに報告、連絡する事で結果的に顧客の要望に近いものができるし、プロセスにおける無駄も省けるはずだ。

 

三つ目は「担当者のメンタル」だ。ストレスの多い現場に常駐させる愚策を繰り返さないためにもローテーションは必要だ。しかし中小企業では人的資源が潤沢にある訳ではないので職務が固定化されやすいし、不調のシグナルを早めに覚知しても結果的に現状放置するケースも起こりえる。特に入居者と折衝する部門や賃料督促部門、更新業務部門はメンタルをやられやすいから、早めの交代が必要かもしれない。代行会社の提携なども視野に入れるのも検討するべきだろう。属人的対応や処理で終わらせるのではなく、組織として対応する方向に変えていきたい。懇親会等のストレスのガス抜きや事例検証に基づくロールプレイも社員の精神的負担軽減つながる。
以上の課題は僅々のものとしてこれからも日常業務の中で注視していきたい。

今後社員教育をメインとしていくためには、以上の「当たり前のこと」を徹底していくつもりだ。

顧客の信頼を得るために、社員の対応がすべてになる。難しい事でもなく高度なスキルでもなく、顧客の為に行動することだ。約束を守る、キチンと説明する、納得できる提案、当社とお付き合いすることがプラスになると思わせる点が必要だ。

我々のような不動産仲介管理業では自社の商品力で競合他社と差をつけるのは難しい。数年でマネをされるからだ。差別化の要因は社員力しかないと考えられる。社員力は先ほどの「あたり前のことがキチンとできる」事だ。勿論、専門知識も必要だが」基本はより常識的なことになる。社員教育は短期間でできるものではなく腰を据えて長期にわたって行う事が必要になる。その為に先の「合同会社ゆいまーる」を作り担当することになった。エンドレスの課題であるが顧客の信頼を得るためにも腰を入れて取り組むつもりだ。

中国の熟語に「創業守成」という言葉がある。「創業は易く、守勢は難し」という意味だ。普通に考えれば創業の方が難しいが、創業できるような人にとっては、守勢の方が難しいと意味になる。求められるスキルも異なるので当然ともいえる。二代目は創業者と比較されることも多いが、短兵急に結果を求めず会社の理念に基づいて取り組んでもらいたい。

注:「ゆいまーる」は沖縄の方言で助け合いを表す美しい言葉です。

         

                                                   アーバン企画開発 相談役 / ゆいまーる代表社員        三戸部 啓之