202号-2014.5.25

[ 2014.5.25. ]

202号-2014.5.25

昔から経営者による語録がある。
有名なのは「電通、鬼の10訓」とか、石川島播磨重工業の元社長土光敏夫氏の「モーレツ経営10訓」がある。これらは実体験に基づいた金言で時代を超えた重みがある。
後年、「ミスター合理化、財界の荒法師、行革の鬼」といわれた土光敏夫氏が、経営者として世間から注目を集めたのは、経営危機に陥った赤字企業を再建する〝再建屋としての手腕と業績″にあった。石川島播磨重工業の経営再建に実績のあった氏は、1965年経団連会長だった石坂泰三氏の要請で、当時苦境にあった東芝建て直しを依頼され、社長に就任した時の第一声が先の「モーレツ経営10訓」だ。

更に氏は「知恵を出せ、それが出来ぬ者は汗をかけ、それが出来ぬ者は去れ!」という有名な言葉も残している。但し経営の神様の松下幸之助は「『まずは汗を出せ、汗の中から知恵を出せ、それが出来ぬ者は去れ!』と云うべきやね。本当の知恵と言うものは汗から出るものや」と、この言葉を批判しているが、後年のパナソニックの業績低迷振りから見ると、今や正に土光氏の言葉通りのリストラをはじめとした組織改革を行っているのは、経営の神様の後光が消えたからではと複雑だ。

土光氏の経営手法の特徴は、「君に任せた、責任は俺が取る」、現場に指揮権を委譲したことである。東芝では官僚的組織になっていたことがチャレンジ精神を阻害し改革風土がなかったが、権限委譲により元々優秀な社員が多い東芝では大いに社内に活気を醸し出しただろう。

しかし、当の東芝では業績は回復したが、残念ながら東芝本体の体質まで変えることはできず志半ばで交代した。

当時は現在とは比較にならぬ世情で大企業の経営者は一般社員からすれば雲の上の人だ。「メザシの土光」といわれた清貧な生活態度と大企業の経営者らしからぬ庶民性が土光ファンとして根付いている。そのメザシについては「あれは演出である」という話もあるが質素な生活態度は間違いがない。

語録は経営改革の根幹を成すものだ。しかし社員数が増え、組織が重層的になってくると様々な問題が起こり硬直化してくる。つまり部分最適になり全体最適からすると問題が多いのだが、当の部署からは問題として指摘されない。その所属社員は一生懸命に与えられたミッションをこなしているから、他部門から見ておかしいとは指摘されながらも自部門では意識されない事になる。企業の危機管理という指標で言えば、僅々の課題でいずれ「死にいたる病」に至る。組織自体が硬直化し、大切な顧客思考が忘れられるからだ。そこで様々な危機対策が出てくる。日産のゴーン社長がはじめた「クロスファンクションチーム」がそうだし、オフミーティングを利用した社内の組織改革プロジェクトチームの編成もそうだ。

最近では日航を再建した稲盛和夫社長の「アメーバ経営」で有名な現場主義、部門別採算制もそれに当たる。夫々倒産の瀬戸際にあったかつての優良企業が、経営者が変わることでV字回復したから脚光も浴びる。やってみれば「誰でも考えていた普通のこと」なのだが、強固な意志を持ってリーダーシップを発揮する経営者が来るまでは改革の端緒が開かれない。V字回復しても、改革者が居座ることで再度業績が低迷することも多い。往々にして改革者とその実行者は異なる気質が必要とされるので、速やかな交代も必要になるが、その辺のタイミングも組織維持の観点からは重要な要素だ。組織を強力な戦闘集団として維持するには、さらに違ったモチベーションと組織改革が必要になる。新たな形を作る人とそれを動かす人の違いといえよう。好個の例として徳川幕藩体制の200年がある。組織を維持するには時期にあったリーダーが必要になる。

以下の10訓は今でも十分に通用するし、経営者のみならず全員が常に心しなくてはならない。明日からひとつでも実行しよう!
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1.  一般社員は3倍、重役は10倍、私はそれ以上働く

当時一般社員が朝8時に出社しているのが当たり前なのに、重役クラスは10時ごろ出勤し、夜は東京の新橋周辺で、飲み食いしている風潮があった。上に立つ人間ほど犠牲的精神が必要なのに、現実は全くのあべこべであった点を痛烈に批判したが、自ら率先垂範して実行した事は大きく社内に浸透した。もちろんこれは物理的な意味合いのものではなく、体や頭を使って効果を出せという意味と理解している。そんなだらけた雰囲気を一掃し、先陣を切って働くとの一大宣言を社内に叫び、東芝の再建に好スタートを切った。

2.60点主義で即決せよ、決断はタイムリーに! 
経営判断はスピードが求められる、100点では遅い、商機を逸する。リーダーの最大の仕事は決断することだ。

3. 成果が上がったら報告するのではなく、報告するから成果が上がる! 
報告はこまめに、修正が効くし的確なアドバイスも受けられるが、そのタイミングもポイントだ。

4. 頭を酷使せよ! 
足を使う事が大事だがあらゆるリスクや未来像をイメージする事が必だ。

5. 廊下コミュ二ケーションを積極的に行え! 
場所を問わずこまめに意思疎通を図れということ

6. 幹部はエライ人ではなくツライ人だと知れ!  
判断することは孤独で、その責任は一人で負う。

7. まず信頼される自分になれ! 
組織の要諦は周りからの信頼だ、それがなければ簡単に瓦解する。海兵隊で言うフォローユーではなくフォローミーだ。有言実行こそ組織を奮い立たせる。

8. 地位につけて能力を発揮せよ! 
役職が人を作るといわれるが、人選とミッションが問題。人選を誤るとせっかくの有為な社員をつぶすことにもなる。

9. 会議の5原則

・会議では論争せよ!  
会議は報告や説明の場ではない、資料として事前に配っておけばいい、会議は議論の場であり対立を恐れてはならない。

・会議は真剣勝負の場である!  
一対一の立会いの場であり、一人で出よ。助太刀を求めるな!

・会議では全員発言せよ!  
参加者はみな対等である、肩書の上下など気にするな、遠慮は無用、全員発言すべきで発言せざる者は参加の資格はない。

・会議は一時間単位でやれ!  
会議の効果と長さは何の関係もない、肝心要の急所を押えれば、そんなに時間がかかるはずがない、幹部が椅子を長く開けるのは罪悪だ。

・会議は立ったままやれ!  
会議の要諦は気軽にやる事だ、立ったままで会議をする会社も多い。今をときめく「武蔵野」や「トリンプインターナショナル」なども有名だ。しかし実行できる会社は少ない。

10. 明日にしようという心にムチを打て!  
人間は弱い、他人のカレンダーに忠実になれという事、自分の納期を守るのがビジネスの絶対条件だ。時間は財産だという意識も必要だ

社長  三戸部 啓之