[ 2014.8.25. ]
205号-2014.8.25
最近、漢字や言い回しで「間違えやすい●●」「知らないと恥をかく●●」「美しい●●」「絶対覚えたい●●」とかの書籍が多数出版されている。COOLジャパンのように日本語の良さを改めて見直そうとする風潮がある。日本語は中国から入ってきた漢字や言葉をもたくみに取り込み豊かな表現に育て、明治以降のカタカナの外来語なども取り入れ、複雑な組み合わせとバランスの上に立っている。かって階級社会の名残である尊敬語や謙譲語も現代に至って「他人への思いやり」という形で残っている。このような複雑な背景があるからこそ日本語は繊細で美しい表現力や様々な表現手段を備えている言語だともいえる。
文字教育はその時代の意図を反映する。文字が知識階級の専有物から大衆の情報ツールとなっても、音声や文法と異なり、文化的学習を経て身につけられる「ものを書くという行為」には人為が絡みやすいからだ。様々な思いが交錯した時代の文字教育の象徴的事件として、明治18年(1885年)、第1次伊藤内閣の下で初代文部大臣に就任した森有禮が国語を廃して、英語に代へようという意見を発表した事がある。たちまち「かやうな人々は國語といふものは國民の古來の貴重な精神を蓄積してある重要な寶庫であるといふ事を知らないからである」と厳しい批判があった。
国際語の必要性というグローバル化の流れの中での、固有の文化を残すというグローカル(グローバル+ローカル)の流れも無視できなくなっている。多様な表現手段を持つということは、自然を敬い、他人を尊敬する事にもつながり、民族や地域共同体を強固にする手段でもある。
「チョーやばい」「イイネ」だけで成り立つ会話に一抹の不安を覚えている人達も増えてきた。通常使われる日本語について「知らなかった」という事が言い訳として許されるのは10代までだろう。社会人になると驚くほど日本語に付き合わなくてはならなくなる。プレゼンや企画書、稟議、報告書などきちんとした日本語で表現することが求められる。
当社でも新卒研修は、ビジネスマナーとして最低限のビジネス文書の書き方を教えている。
しかし、文章は勿論、漢字さえおぼつかない新入生もいる。読むことは何とかできるが書くことは絶望的だ。その原因はワードの変換機能にある。意味が大体わかり、読めれば文章を書くのに支障がないし、非日常的な漢字も簡単に出て、文章も立派そうに見え体裁も良い。 閑話休題、もう一度自分自身を点検する必要があると考え、最近、手に取った書籍がある。
「朝日新聞校閲センター長が絶対に見逃さない、間違えやすい日本語」前田安正著 という本だ。
第一章 これだけは押さえておきたい日本語の常識
第二章 ここまでは身につけたい日本語の教養
第三章 会話を豊かにする社会人の日本語
第四章 ライバルに差をつける日本語
第五章 人をうならせる日本語の知識
これだけでも、本をとってみたくなる構成だ。関心のある社員は「アーバン図書館」で借り出すか、待てない社員は是非購入してほしい。如何に自分の知識がいい加減なものか再確認できる。
結局、自分自身、本書を読むことが浅学菲才の確認のようになったが、恥を忍んで社員の皆さんにも報告してみたい。各章には、模範文章の例示もあり大変示唆に富むこと請合いだ。
「これだけは押さえておきたい日本語の常識」のうち、どっちが正しいか? 解答して欲しい。
① 彼は聞き上手で「合いの手を入れる・合いの手を打つ」のがうまい。
② 新鮮な魚介類に舌「つづみ・づつみ」を打った。
③ 声を「荒げる・荒らげる」
④ 長年続いた企業の不祥事が、報道によって「明るみになった・明るみに出た」
⑤ 第一志望の大学に入るまでは石に「かじりついても・しがみついても」頑張るつもりだ。
⑥ 奥歯に物が「挟まったような・引っかかったような」言い方はやめて、問題があるならはっきり話してほしい。
⑦ 「思いついたが吉日・思い立ったが吉日」というので早速英会話教室に申し込んできた 。
⑧ 来年の甲子園出場に照準を「当てて・合わせて」、今日から練習を始める。
⑨ 彼女の意見は的を「得ているので・射ているので」、参考にすべきだと思う。
⑩ 数年に一度、卒業生が「一堂に会して・一同に会して」懇親会を開く。
いくつできただろうか? 失礼だが、意外とできていないはずだ。単なる思い違いや、原典に確認しないでそのままになっていたからかもしれない。
正解は・・・①「合いの手を入れる」、②「舌つづみ」、③声を「荒らげる」、④「明るみに出た」、⑤石に「かじりついても」、⑥奥歯にものが「挟まったような」、⑦「思い立ったが」吉日、⑧照準を「合わせて」、⑨的を「射ている」、⑩一堂に「会して」である。
解答理由は紹介した書籍を読んでほしい。古典の索引を読むことで腑に落ちる。
ビジネスパーソンとしては、美文は必要がないが、コミュニケーション手段として最低限のルールや常用漢字は覚えたい。特に若い社員はメール文章になれている為、主語や目的語が欠落しているケースが見られる。それを補うのが、絵文字や顔文字の多用らしい。「て、に、を、は」をきちんと入れることでも趣旨が随分明確になる。文字コミュニケーションは書き方次第で、誤解されることもある。電話と同じだ。顔が見えないので、相手の表情に合わせて言葉を変えることができない。即時に訂正し誤解を解くこともできない。さらに発信してから相手の了知というタイムラグもあるから問題を難しくしている。
電話での通話も「相手の顔を浮かべて話せ」といわれるが、文章も同じで、受け取った「相手の顔を想像しながら、筆を進めよ」と先輩に教育されたものだ。
礼状と詫び状が書ければ一人前だとも言われた。書き手の感情が文面に入るからだ。
うまく書く必要はない、きちんと趣旨が正確に伝わればビジネスパーソンとしては合格だ。文章の言い回しや漢字の誤用を防止する必要がある。その為には、文字に接することが良い。新聞も良い、本を読むことが一番近道だ。 しかし新聞の購読者数も書籍の購入者数も激減しているそうだ。
出版科学研究所によると、2013年書籍・雑誌推定販売金額は、前年比3.3%減の1兆6823億円になった。1996年のピーク時の2兆6564億円と比較すると、約63%の水準になった。ただ新刊発行点数は増えていて、2012年度は前年比4.2%増の8万2204点に上り過去最多となった。新刊発行点数増が書籍市場を支えている傾向が読み取れるが、出版部数全体で見ると毎年減少している。
古典が良いとも言われるが、なじめない社員は「良書」といわれるものが良い。新聞や雑誌の批評欄で「良書」が紹介されているので参考にすると良い。
社長 三戸部 啓之