207号-2014.10.25

[ 2014.10.25. ]

207号-2014.10.25

 

貸主の利益を守るために汗をかいているか!
最近、安易に賃料の値下げを行い貸主の信用をなくしているケースが見られる。賃料の値下げは「伝家の宝刀」であり、最後の手段である点を忘れている。伝家の宝刀とはいざという時以外は使わない思い切った手段、「最後の強行手段」を言う。つまり度々使うようでは伝家の宝刀とは言わない。

我々の業務に置き換えてみると、「賃料値下げ」という最後の手段とは、あらゆる手を使い、現時点で考えられるあらゆる行動を実施してでも結果的に決まらないときに使う手である。通り一遍の市場調査で賃料を査定してはならない。一旦提出した値下げを実施した以上「決める責任がある」という事である。

それにはまず、当該物件との競合物件を全て抽出する。競合物件とはその地域にある同等の物件だけではない。駅からの距離・設備・築年数・間取りの比較が一般的だが、周辺環境・方位・日照状況・利便施設・物件の管理状態・防犯状況・通路の状況・交通量の把握・終電車等のアクセス・既存入居者属性が必要だ。さらに地域同士の競合もある。これらは賃料査定のイロハだが新人レベルだとそれなりに基本を遵守しているが、3年もするとこの基本を忘れるようだ。ここで心しなければいけないのは、我々は貸主様の代理をしていることだ。自分の痛みのように、自ら自覚しなければならないことだ。決して他人事のような姿勢ではいけない。何故なら、この賃料に将来も拘束されるからだ、このマイナスをこれ以上増加させないようにする手段が賃料値下げの最終時期になる。将来の市場動向も踏まえて貸主に説明しているかどうかもポイントだ。

たまに理解度テストをしてみると、当該物件のセールスポイントをきちんと説明できる社員が少ない。残念なことだが、せいぜい一つか二つのレベルである。これで今まで通用することが異常なのだ。勿論、同じものがないという不動産の特性もあるが、それに安住していた結果がこれだ。

価格8万円の電化製品を買う時、販売側がどれだけの説明資料を準備しているか、よく考えてみてほしい。パンフレットの厚さや販売担当者の知識を見てほしい。いかに我々の業界は手抜きが横溢(おういつ)しているかということだ。消費者嗜好、顧客満足といってもこのレベルなのだ。だから、こんな簡単なことを実践することで他社と差別化ができることを肝に銘じてほしい。
空室発生から入居するまでの時系列の把握も必要になる。

他社はどんな手を打ったのか、を調査することも必要だ。物件をウオッチしていれば判断できるはずだし、わからなければ、相手の会社に行き「あの物件、よく決まりましたね!さすが●●ですね」といえば案外教えてくれるものだ。
これができるから大手がマネをできない地域密着型不動産会社といわれるのだ。これができなければ「地域にあるだけの会社」に過ぎない。存在するだけの企業は「顧客にとって意味のある企業」とは言わない。

大手と同じネットでしか物件を把握しないのなら、どこに存在意義があるのか、何を売りにするのか わからないことになる。こういうレベルの会社が「宅建業法」という岩盤規制で守られているのだ。既得権益で守られている業界はその規制が外れたときには間違いなく淘汰される。

神奈川県で不動産業者は約8000社ある。世帯数に換算すると490世帯に一拠点、コンビニは1170世帯に一店、どう考えても多すぎる。これらの企業が今まで存続している自体、いかに甘えていたか、と証明するものだ。物件を商品と考えず、どのように消費者にPRするかも考えず、在庫責任もなく、決まらないから仕方がない! という右肩上がりの成長神話の中でビジネスをしてきた結果に他ならない。競争戦略もなく、マーケット、差別化戦略はもとより、物件データ自体の経歴記録も怪しい。思いつきで提案し、思いつきで行動している。さらに、説明責任からは、同業他社と比較してもこれ以上ないという手段が必要である。

もっと言えば、同業他社でも決められなかったという結果予想が必要なのである。これは、所属している組織の問題はもとより、競合先の不動産会社の動向や営業力の把握も必要だ。
その比較がSWOT(Strength強み・Weakness弱み・Opportunity機会・Threat脅威)分析で自社の強み弱みを克服しなければならない。自らのスキルのなさ、行動力のなさ、集客の方法の稚拙さも、白日の下に晒される厳しい瞬間だ。そこまで分析して、賃料の値下げをきちんと提案しているかが、問われるのだ。最後に一番重要なのは、その結果を貸主が納得しなくてはならない。

今までの経緯を見てみると、担当者が足を使い、汗をかき、悩んで出した空室対策ではない。単にネットに掲載し、不動産会社にチラシを持ってまわり、現地に看板を掲示しただけで、手を尽くしたと思っていることが多く見受けられる。ここにはその担当者が努力したという軌跡がない。これで上司も担当者もやっている気になっているのが、低迷の原因だし担当者のスキルもあがらない。しかも、現地看板もつけっぱなし、ネットも掲載しっぱなし、条件変更の時にだけネットを見るのでは、社員は不要である。パートで十分である。パートのほうがより頼りになるし、受けもいい。だからいつまでも「待ちの営業」しかできない。待ちの営業に慣れるとそこで思考が停止する。

待ちの営業をしていると、全てが成り行き任せだ。結果に対する検証ができない。口先でいつもごまかし、自己正当化している。だから何年経っても新入社員レベルのスキルしかない。ここには自分が顧客の利益を守るという意識がない!ここには自分を鍛え、成長するという意識がない。空室が発生すれば、「馬鹿の一つ覚え」のように、「周辺相場とこれだけ違うから賃料を下げないと決まりません」しか提案がない。他社の手法や自らの営業力のなさの点検がない。
他社に決まっても、何も感じない、恥とも思わない。
この繰り返しが当社の仲介力の貧困さの原因であるし、無能集団になっている所以だ。決められないのは、誰のせいでもない! 自らの「能力のなさ」であると意識することから全てが始まるのだ。入社3年生で半期30件、5年生で半期60件、10年以上で半期90件をクリアしない社員は何が欠けているか、謙虚に振り返ってほしい。そこからが改善のスタートになる。ヒアリング能力なのか、クロージングなのか、商品知識不足なのか、はたまた集客力不足なのかいろいろな問題点が明確になる。

受託部門、顧客サポート部門も同様だ。決められたルーチンワークでは問題意識も生まれない。
ガイドラインに到達しない社員は、すべて何らかの問題があるのだ。顧客からは、常に他社の営業と比較されている、と思わなければいけない。「恥ずかしい」という意識から「恥ずかしくないようにする」行動がうまれるのだ。「恥ずかしい集団」の中では「恥ずかしくない社員」は異端児になる。これではおかしいと思わなくて当然だ。
「恥ずかしくない集団」こそ「営業力のある、信用される集団」といわれる。

こういう組織を持つ会社が生き残れるのだ。顧客に利益を与え続ける事が有為な会社といえるのだ。

社長 三戸部啓之