[ 2012.7.29. ]
180号-2012.7.25
当社の基幹業務である賃貸仲介営業社員(当社ではレンタル・アドバイザー:RAと略称)の位置づけと責任について整理してみたい。
賃貸管理会社がRA部門を持っている事に対して、様々な批判がある。その殆どがサブリース主体の管理会社からであり、新興企業が多く管理戸数規模も1000~3000戸である。
その表向きの理由は「管理会社が仲介部門を持てば自社管理物件しか仲介しない」「自社の都合のよい賃料とか賃貸条件を設定するから貸主のためにならない」「入居者にも自社管理物件しか進めないので、選択の幅がなくなり入居者の来店も少なくなる」に要約する事ができる。反対の立場からすれば、「自社管理物件しか仲介しないから、それに専従することになる」訳だし、「賃貸条件も」貸主と直接、接している訳だから一日でも早く空室を埋めようとするし、「選択の幅」も掲載物件に特化するために様々な工夫を凝らす事になるので必要となる。物件情報の選択権は業者側ではなく入居者側にあり、業者側がその物件の誘引効果を常に考えるのは、仲介専門業者ではなく仲介部門を併設した管理会社になる点を忘れている。仲介専門会社は数ある中の決め易い物件に集中し、入居者の要望を100%飲んでくれる貸主物件が良いことになる。つまり仲介手数料さえ貰えればどれでも良い事になる。選択はより多くの仲介手数料や広告宣伝費がもらえる物件に集中する。又彼らの最大の収入源は仲介手数料と広告料なので、収入に直結しないクレームや滞納督促は極力避けることになる。
そして管理会社が仲介部門を持たない最大の理由は、自社のRAの教育と社内体制作りが難しいからで、RAの定着率の低いこの業界では大きな課題になっている。又多くの管理会社ではリーシング力がない為、仲介業者に広告費1~3ヶ月のバックが常態化している。その方がトータルコストは低く経営も安定化するからだ。しかし、間接的にしか入居者ニーズのデータを得られないし、ヒアリング能力がないため営業が育たない。管理会社の社員が営業の名刺を持ちながら、「事務系社員」のような不動産業者回りの「御用聞き」レベルが多い。入居者と肌を接することがないから、空虚な理論先行型になりやすい。
しかも現場感覚がないから「間接的なデータ」しか得られない。全国の成功事例からデータ加工し、セミナー等を開催したりするので「管理会社の近未来戦略」と業界マスコミは早速飛びつくことになる。K・K・D「感・経験・度胸」が跋扈(ばっこ)する計数管理の苦手な業界にあってインパクトは大きい。有名なコンサルタント会社もビジネス好機到来とばかり全国紙を尻馬に乗せている。私はそれをショーケース営業と揶揄している。見せるだけで後は自己責任という事になるからだ。美味しそうに見えても食べて見なければ分からないし、食あたりのような事故は表に出てこない。成功事例は何時も大きな声で叫ばれるが、失敗事例は表に出たことがない。勿論当社も例外ではなく「営業職32名」のうち「営業」として通用するのは数名しかいないので戦力化の悩みは尽きない。それほど「営業」を育成するのは大変なことで、本人の適性もあるが教育費用と期間が必要だ。その上経営者には「忍耐」も必要だ。誰でも代替えできそうな職種だが、合格点を取れる「営業」は少ない。
この職種では、相手に警戒させない言葉や態度⇔物件の把握力⇔潜在ニーズを聞き出す力⇔それを整理する力⇔提案する力⇔決断を迫る力⇔満足させる力が必要だが、ネット来店者に対しては決断力(クロージング力)が、フリー来店者には相手に警戒させない言葉や態度や潜在ニーズを聞きだす力(ヒアリング能力)が特に求められる。賃貸仲介といっても来店者の態様により求められるスキルが全く違う。ネット主体や法人営業で営業実績を上げた社員が、フリー来店が主体となる店に配属されると全く実績が上がらなかったりする。
数ある大手仲介会社も含めて、賃貸仲介専業で営業利益を出しているのは、「E社」「S社」位なものだろう。神奈川県では表向きは別にして、まずないと思われ、どの会社でも利益貢献できる営業はいないという事でもある。賃料単価から見て首都圏では月15件の仲介件数及び150万の売上げを営業一人でこなさないと会社は維持できない。平均店舗の営業人数は2人で月30件、240万の仲介料売上げが必須になり、その他の関連売上げも含めて年間売上5000万が損益分岐点である。その前提となる来店数60人以上、来店契約率50%が必要だが、これを維持しているのは先にあげた2社しか知らない。つまり、殆どの賃貸仲介会社が赤字だということになる。だからどうしても歩合比率の営業が多くなり低着率も悪い。販促経費もバカにならない。ネット、DM、チラシ、看板、ミニコミ誌等従来とは桁違いに多様化高額化しており、その情報パイプも細くなっている。販促イベントに使うツールやノベルティーも日常化しコストUPの要因になっている。
また収入源である仲介手数料も決まりにくい物件には、政策的に「0ヶ月」になるし、顧客誘引上「0.5ヶ月」も多くなってきた。当社の例で言えば一件の仲介成約にかかる広告宣伝費は4万+案内経費1万となるから人件費等の固定費や変動費、本社経費を考えると、1件当たりの仲介単価が7万、一店舗月20件以下では当然赤字になってくる。
その為、店舗としては「生産効率」「労働効率」をあげるために、歩合制を取るか、女性社員のパート化をはかり、人件費の変動費化を目指す必要がある。その前提としてパート社員の負荷をいかに軽減するかがポイントになってくる。成功している店舗では、ヒアリング⇔物件検索⇔案内⇔申込までを担当させ、審査⇔契約を他部署で行っている。特に40歳代の女性RAパート社員は独自の生活感や経験から「ヒアリング能力」は群を抜き出ているし、クロージング力もある。この業界に飛び込んでくる以上、宅建資格を取って応募してくるのが殆どだし、なくても1~2年のうちに全員取得している。下手な新卒や第二新卒より動機が明確だし戦力として期待できる。営業全部に言える事だが、RA社員は何より「行動力」が必要だ。そして何時も前向きさが大事だ。営業の原点は「奉仕の精神」だ。感謝の気持ちで時間を惜しまず、労を惜しまない事が、お客様の心を動かす近道であるが、つい手を抜く男性社員達の中で女性社員は光る。「来店客は全て最高の見込み客だと思って接客し商談に当る」から取りこぼしが少ない。「接客のコツはお客さまのいいところを見つけリスペクトする」のが必要だが、この点も問題がない。
営業のできることはその物件を最高の状態でお客様に提供することだけなのだから、物件の事前確認や案内ルートの点検、競合先の比較等万全の体制で臨んでいる。来店契約率からすると50%の顧客を持っていってしまう「見えない強敵」がいると常に意識することも大事だ。常に物件案内後を意識しており、さりげなく予防措置をしている。顧客の気持ちは最後まで分からないから決して手を抜かない、接客次第でお客の気持ちが変わる点をよく理解しているから、決してあきらめない。フォローができているからキャンセルも少ないし、入居者からの紹介も多い。これを見ると、これからは「40才以上のRA男性社員」は不要になるかもしれない。当社でも35歳以上のRA男性社員は「賞味期限到来」と言っている。後は当社を去るか管理職になるかしかない。
社長 三戸部 啓之