223号-2016.2.25

[ 2016.2.25. ]

223号-2016.2.25

「広告料200%が当たり前になってきた!」
賃貸仲介に対する広告料は、空室率の増加を受けて天井知らずになっている。
業法上、賃貸仲介会社は貸主・借主から合計で当該募集物件の賃料の1ヶ月分と規制されている2000年位までは、借主側1ヶ月負担が当たり前になっていたが、最近では借主側の仲介手数料ゼロが70%を占める。其の分、貸主が全額負担となっている。

 

 

更に最近では其れにとどまらず、貸主側が仲介料の他に広告名目で賃料の1ヶ月~3ヶ月も負担する例が増えてきた。厳密に言えば業法違反となるが、広告料の実費精算ならば問題はない。しかしこれでも苦戦する物件では、可能な限り様々な媒体を使うので、簡単に賃料1ヶ月分の広告料は超えてしまうことが多い。成約期間が半年とか1年に及ぶなら実費とはいえ賃料の数ヶ月分は覚悟しなくてはならない。当社の規定でも月400万円は下らない。そういう観点から言えば「一律〇ヶ月と言う広告料」は、不当に貸主に負担をかけていることにはならないとも言える。宅建業法自体が昭和27年に制定されたもので、昭和45年当時の建設省告示(1552号)第4、第5で「賃借の媒介、代理に関する報酬額」が定められた。

 その後、消費税の創設による国土交通省による告示があったが、基本的な内容は従来のままである。賃貸市場が、まだ右肩上がりの時期は、貸主側は、広告費は勿論、仲介手数料も出し渋ったこともあった。「仲介をさせてやる」という立ち位置で、業者側も賃貸はサービス、売買で儲けさせていただくというものであった。業者も賃貸仲介は女性やパートがするもので、男性社員は目もくれなかった時期もあった。ところが無風だった不動産売買仲介市場にも三井不動産がフランチャイズで「三井リハウス」投入した。不動産業界から、その進出に対して死活問題だと様々な反対の政治的動きがあったが、財閥系大手不動産会社が追随し売買仲介は一般化した。東急リバブルが賃貸市場に参入した時は業界で一部反対運動が起きたが、大手でこんな細かい仕事は経費倒れになるという意見が多数を占め、あまり関心がなかったようだ。当時業界でも、賃貸を専門に扱う業者は「エイブル」と「ミニミニ」しかなかった。彼らは専業の強みを生かし、売買と同じように営業社員にノルマを課し、日々の行動管理を徹底させた。又賃貸専用の小冊子を大量に配布し販売促進という手法を取り入れ、知名度は上がり業界の雄となった。しかしその強引な営業手法は消費者側から問題が出ていたが、時間がたつにつれ記憶が薄らいで行った。

地域の中小不動産会社は、独自の媒体誌もなくリクルート社の住宅情報賃貸版でエンドユーザーを獲得するか、アットホーム社に代表される業者専門チラシでしか対抗できなかった。受動的な姿勢での営業が主体であり、積極的な販促活動はしなかった。何のノウハウもなかったからである。せいぜい強引な営業手法を問題にする位で、成すすべもなく両社を見ていたに過ぎない。

当然成果は大きく乖離し2社の独壇場になった時期もあった。当時「エイブル」が上場するうわさも流れ、賃貸会社でも上場できるという意味で業界に光明が走った。こんな時に事もあろうに、2000年、東京都住宅局不動産業指導部が賃貸仲介大手2社に「広告料問題」に対して公開聴聞会を行い、両社に対して行政処分が下された。「消費者の承諾がなく、賃料の1ヶ月分をもらっていた」ということが問題になったのだが、これは業界を代表する2社を罰することで、一罰百戒を狙ったものと受け止められた。

大手中小を問わず「広告料の慣行」はあったし、この処分は業界を挙げて上や下に戦慄が走った。しかし、この問題は賃貸市場の縮小化と景気低迷を受けて、空室を埋めるためには「背に腹を代えられない」と貸主側の変化もあり暫らくして沈静化した。

2010年以降になると「ネット」による販促が主体となって、消費者が携帯端末を持つようになった。媒体誌も従来ほどの販促効果はなくなってきた時期と合わせて2社の圧倒的優位性は揺らいできた。入居者確保は単線チャンネルだけでは補足できず、情報のマルチチャンネル化が当然になってきた。ネットもあらゆるプラットホームが用意され、様々な態様が消費者の利便性の下に開発されてきた。
ネットの使用料負担も大きく業者の経営を圧迫してきた。反響による課金制度を採るネット業者も出てきたり、反響を増やすために「仲介料ゼロ」を前面に出し、入居者を募るネット業者も出て、益々仲介業者の負担は増加してきた。業者側も物件のデータをそのまま出すのではなく、家具付、畑付は勿論、入居者特性や物件環境を打ち出したり、ある特定の趣味や職業の入居者に限定したり、ペット可物件ではなく「ペット付」にしたり、「万人に好まれるのではなく、ある特定の人に好まれる物件」というようにリスクはあるがターゲットを絞った募集も出てきた。

又シェアーハウスのように複数の入居者に同居をさせ、賃料を下げずに小分けするタイプも問題は出ているが一般化してきた。入居の態様が変化するとともに、その募集方法も多様化している。仲介業者としては空室を埋めるためにワンパターンではなく、物件特性に応じた利用方法を考え、それに見合う販促が必要になってきたわけだが、当然その費用も募集チャンネルの増加とともに無視できなくなってきた。

しかし、業法上、広告料や仲介料の縛りがある以上、変則的だが広告費名目ではなく他の名義で支払ってもらうところが多い。販促費用の増加だけでなく仲介会社の固定費負担面からも手数料が障壁になっている。特に東京の業者は、通常の仲介手数料の他に広告料を上乗せしないと、神奈川の物件は紹介しないことが多い。まして5万以下の物件は見向きもしない。
不便なところにあるワンルームタイプは賃料が2~3万なので業者から見向きもされないことも多い。手数料総額が10~15万以上ないと手間賃も出ないという理屈だ。当該会社の営業マンも売り上げ至上主義だから、なるべく一件でも売り上げが多いものを選択する傾向にあるからだ。

当社の地区では営業社員一人当たりの月平均仲介件数は6件、繁忙期で月8件であろう。一人当たりの固定費は月120万とすれば、1件15~20万が売り上げの目安になる。その中には損害保険、入居者サービス関連商品の付帯売上げもあるので14~18万が本来の仲介料売り上げになる。都内や人気エリアの高賃料地域ならば問題がないが、平均8万クラスの川崎、横浜エリアでは,当然広告料等の収入を当てにすることにならざるを得ない。
業者側も広告料の上乗せが一般化している中で、まず物件より、広告料の過多で入居者に紹介するかどうかを決めているケースも目立つ。入居者が特定の物件を指名する場合を除き、業者側に勧められる物件の中でしか選択肢がないことになる。特に時間的制約のある受験生や地区にこだわりがない入居者には業者側の都合で勧められているようだ。
当然当社も決めづらい物件、相場より高めの物件は上乗せ広告料を支払うこともある。勿論、それに甘んじることなく携帯端末で情報を入手する入居者が増えている現状に鑑み、物件着目度を上げる手法を考え実践している。同時に企業との提携による転勤者情報の入手、付帯設備付物件の常備、既入居者満足度の向上による入居者紹介制度、優良入居者の入居期間の長期化促進策も効果は出ている。
仲介会社には厳しい状況下であるが「知恵と汗」でオーナー様の評価を得るべく頑張って行きたいと考えている。

                                                                                                                   社長 三戸部 啓之