175号-2011.12.25

[ 2011.12.29. ]

175号-2011.12.25

PCN001今回は5年に1回義務付けられる「不動産コンサルティング技能者」の資格更新レポートを掲載しました。
12月号のアーバンレポートでも一部内容が重複しておりますが、余りにも未曾有な被害とそれに伴う企業活動の停滞が、日本経済に燭光をもたらしつつあった状況をものの見事に粉砕してしまった点から、より詳細に取り上げてみました。
先が見えない「大変な時代」になってしまった訳です。「大変な時代」とは、「大きく変化する時代」だとも言えます。バブル以後失われた10年どころか20年にもなりそうな状況です。変化の芽はあちこちで出ています。
しかし、まだまだそれを契機に意識変化と改革行動が起きていません。
旧来の因習や成功体験にしがみついているからです。

 

世界標準から乖離した雇用慣行、商慣習、借家関係はその実例です。エセ社会的弱者が跋扈し行政も見て見ぬ振りをしています。生活保護受給者数は戦後の飲まず食わずの一時期を越えて毎年増加しています。年金財政や少子高齢化にも未だ有効な方向性が出ていません。議会制民主主義も劇場型やパフォーマンス型の衆愚政治化しており存続自体赤信号が出ています。

弊社も例外ではありません。「競争原理を否定する社員」や「指示待ち、言われただけの事しかやらない社員」「教育は会社がするものと考える受身社員」がいます。
「ぬるま湯現象」「ゆで蛙現象」と警句があらゆるところでされていますが、他人事のようです。グローバル化とは「価格破壊」を伴います。商品価格のみならず、人件費も例外ではありません。生き残るためには「低価格と高品質」が必要なのです。社内のあらゆる機構、組織の見直しと社員のたな卸しが必要なのです。「適者生存」は生きる上での哲理です。

東日本大震災はそういう意味で、「組織を自分を」点検する好機だと思います。
前置きが長くなりましたが、以下からが「東日本大震災を振り返る」レポートです。
「東日本大震災」は、あの惨状をみて「第3の敗戦」と捉え、「第3の開国」に結びつける知識人もいた。それは戦前・戦中派から見れば、まさにB29による主要都市に対する無差別絨毯爆撃跡を彷彿とさせたからであろう。

戦後は東大教授の丸山真男氏が、自らの陸軍2等兵体験から「超国家主義の論理と心理」を発表。戦前日本の軍国主義やファシズムに関する一連の論考は、論壇のみならず広く敗戦後の日本人に衝撃を与え戦後民主主義思想の展開において、指導的役割を果たした事がある。

災禍は営々と築きあげた人の輪、歴史、生活の糧が建物とともに崩れ落ち、その中の人々も根こそぎ葬ったのである。当時もそうであるように今回も様々な形で旧来の思想や価値判断を根底から問い質す知識人が多かった。総じてこれを契機に「社会制度や意識のイノベーション」を求めたのである。
イノベーションの先こそ「確かな未来」があるというわけである。

被害者感情を抜きにして考慮すれば、地震などの自然災害は長いスパンで見ると成長に影響しないし、むしろ災害多発国の多くは成長率が高い事が実証されている。
それはそれを契機に技術進歩があり、いわゆるゼロからの再設計が可能となり創造的破壊が行われるからである。具体的には旧態依然とした慣習や制度が否定され、グローバル化の促進が図られるとともに被災地再生に合わせた産業集積が可能となるからである。

個々人のレベルでも震災は人の意識を大きく変えたと報告されている。
アクサ生命2011年6.月の調査でも「7割が家族との時間を重視し始め」人との緊密な関係を求め「震災婚」「すぐ婚」の増加につながり、「社会貢献への意識」が2倍以上となった。この「意識構造の変化」が住宅取得にも現れている。

JTBモチベーションズ2011年9月の調査でも、そのような意識の変化を背景に「ワークライフ&バランスへの取り組み」が企業の早急に取り組む課題とされている。東日本大震災の教訓は4つある。

①「防災から減災へ」
今になっては当たり前のことだが、長期予測は勿論、直前の地震予知さえ正確には不可能なことが露呈された。津波対策として高さ10メートルを超える防潮堤がいとも簡単に破壊された現状を見ると従来型の防災ではなく、被害をなるべく少なくする対策へと方向転換する減災社会を目指す他ないことが分かる。いかような人智をもってしても自然の力の前には無力だったのである。建築に関しては昭和56年の新耐震基準の改定によりある程度の効果が見られ、地震による倒壊は予想されたよりも少なかった。但し「構造上全壊」と認定された分譲マンションが仙台市内だけでも約100棟もあり、費用負担をめぐって住民の調整が難航している。神奈川県でも昭和56年以前の建物は110万戸(約33%)もあり、その内、耐震性があるものは50万戸に過ぎないことが判明し、耐震性能の向上が今後の課題とされている。被災地で起こった津波による「鉄筋コンクリート造建物の横転」問題は建築関係者にショックを与え、構造基準の見直しの声も上がった。地震と津波が連動している点が忘れられ、建築基準法上の盲点にもなった。

ここで重要なのは「郷土史の知恵に学ぶ」姿勢だ。869年貞観地震、1611年慶長三陸地震の、東日本大震災と同規模の地震と津波に襲われた教訓が生かされていない事だった。
津波に際し「すぐ逃げる」「低地に住まない」が、忘れられていたことだ。

随筆家 寺田寅彦は「天災は忘れたころにやってくる」「鉄砲の音に驚いてたった海猫がいつの間にか又寄ってくる」と揶揄した。寺田の言葉は1933年昭和三陸大津波を見て高台に一度移住しながら不便だからと低地に戻った人々を批判したわけだが、社会インフラや生活基盤が全て低地に存在し、人口減少と超高齢化の壁が高台に住むことを困難にしている事実も忘れてはならない。集団疎開も旧来のコミュニティーを破壊してしまい、濃密な人間関係が薄れ共同体が維持できなくなっている点からも難しい。新たな精神的ケアーも必要になっている。

現に岩手県では3月12日~8月31日で建築確認許可件数112件(内住宅 25件)、宮城県石巻市他3市では3月12日~7月31日の間で1394戸(内住宅 333戸)と生活利便施設の修復や生産設備を伴う事業用建設物だけでなく個人住宅が被災地に通常の2~3倍で申請されている点からも首肯できる。どれほど破壊されようが生まれ住んだ土地からの移転を拒否しているからだ。

②原子力の安全性神話崩壊による「原発依存社会からの離脱」
日本の原子力開発については、当時から軍事利用に転用される恐れが強いとして抵抗があったが、1954年3月米国がおこなったビキニ環礁の水爆実験(被爆したマグロ漁船乗組員久保山愛吉氏は同年9月死亡)と同じ月に中曽根元首相等の提出した原子力関連予算が国会を通過し、政治的に国家主導の下に原子力開発が進められた。それを支える神話として『原子力は無限のエネルギー源』が必要になった。その後1970年代の石油危機を契機に、神話が補強され、1980年代から問題視されてきた地球温暖化と相乗し「原子力はクリーンなエネルギー」『原子力は安全』という神話が東日本大震災でもろくも崩壊した。

日本は電力が無限にあることを社会と産業の前提にしたが、計画停電によりその幻想も崩れ去った。温暖化削減の旗手を担い電力供給の主役と期待された原発の存在意義が揺らいでいる。磐石と思われた東京電力が債務超過に陥り経営基盤が揺らいでいる。在庫を作らない「ジャスト・インタイム」生産方式がサプライチェーンの脆弱さにつながり、生産出荷体制に大きな障害となった。放射能被爆による健康不安や風評被害が社会的混乱を招いている。世界で一番安全と思われた日本の食物への信頼も揺らぎ始めた。土地神話が政策的要素だけでなく突然の放射能警戒区域の設定で無価値になることが判明した。

③科学情報の発信限界が判明
従来の多数意見だったアスペリティーモデルの過信による思考停止が起こっていたことである。勿論冷静に考えれば「地域により異なる特性」があり、しかも「過去130年程度のデータ」しかないし、そこから推論することは常識的に考えても無理があった。

現実に、大地に蓄えられたエネルギー値は予測不可能であり、いかに数値的精密さをもってしても限界がある。だから、2011年9月15日地震調査委員会により従来から指摘されていた東海・東南海・南海地震の他に日向灘(宮崎~大分)、はるか沖(四国・近畿圏)の発生も追加報告された。「30年以内に5連動地震が起き」その規模はM8以上の巨大地震であると空恐ろしい予想も伴った。それらの位置からすれば、まさに日本は地震列島であり、起きれば「日本沈没」にもなりかねない。さらに全国に56基ある原発が臨界事故を起こしたら未曾有の事態になるだろう。2010年12月末で老朽化した原発を30年以上とすると20基(内福島第一6基)もあり日本のカタストロフィーも現実味を帯びてくる。

④津波対策
2011年7月10日現在の被害状況から見ても、人的被害は死者15547人、行方不明者 5344人 計20891人(宮城・岩手・福島3県で99.7%)だが、死因は津波原因が殆ど(水死92.5%、圧死・損傷死4.4%)で、阪神淡路大震災の場合は建物倒壊による圧死99.5%と今回は津波の被害が圧倒的に多い事が分かる。しかも漁船被害22000隻、農地被害23600haと阪神淡路とは異なる被害も発生している。その結果、直接被害推計(内閣府6/24公表・再調達価格)は建物 10.4兆、上下水道等1.3兆、道路港湾 2.2兆、農地・林野 1.9兆、その他1.1兆と阪神淡路の2倍弱にもなっており、岩手・宮城・福島3県の2007年県民経済計算約20兆にも匹敵する被害額になった。その後の風評被害を含めれば被害総額はさらに膨らむだろう。
ここで不動産をめぐる具体的リスクの整理をしてみよう。

①広範な浸水リスク
日本列島は東方に変位し牡鹿半島 5.3m、東京23区 約2㎝、沈下は牡鹿半島 1.2m、陸前高田市 84㎝、石巻市 78㎝、大船渡市 76㎝、気仙沼市 74㎝と記録されている。
これによると宮城県ゼロメートル地帯は、従来より3.4倍に増加(約56k㎡)したことになる。
首都圏ゼロメートル地帯(江東区他)に置き換えると約120㎢の広さになり、人口180万人の半分の家屋が浸水し居住困難になる。横浜市の物流拠点として整備された大黒ふ頭でも平均4~5cmの地盤沈下が起こった。これは地表に液状化現象がなくても地下の深い層で液状化が起きた可能性があると懸念され、地盤沈下と液状化の関連も広範囲に見直す必要がある。
さらに、そこを走行する大深度地下鉄や商業施設等地下施設の災害問題も無視できない。通勤時間帯に遭遇すれば多数の水死者は免れないし、地下40㍍以上となれば現状の救助体制では困難は必至である。盛夏に発生すれば首都機能の麻痺に伴い伝染病の発生、塵芥処理、汚水処理の途絶が生活基盤を破壊してしまうだろう。

②液状化エリアの顕在化
範囲は南北500キロ、6都県63市町村、住宅被害約24000戸となっているが、千葉県浦安では市域85%~が液状化し住宅被害は18400戸になった。横浜市港北区小机でも26戸、金沢区柴崎で13戸、本牧専用埠頭(中区錦町)、川崎市の東扇島を含めた臨海エリアでも液状化が多発したと報告されている。横浜市ではいずれも水田や沼地の埋立地だったが、川崎市を含めた自治体で液状化が予想されていない地域でも発生した衝撃は大きく、ハザードマップの見直しは避けられない。このような中で今後不動産取引も地歴と地盤関係の調査が求められ、重要事項説明にも記載されるようになるかもしれない。宅盤の移動変化は不動産価値に直接及ぼす為、その瑕疵をめぐりデベロッパー、仲介業者に対する責任追及も考えられる。

③長周期地震動による超高層建物問題
これは長時間の横振れが上層階で起こる現象で、30階建て高さ120mで固有周期は3~3.5秒、50階建で5秒程度になるものである。さらに地震波(短波動+長波動)の中で長波動は減衰しにくいので、遠距離地の地震の影響もうけ、直線で約500㌔も離れた大阪府咲洲庁舎(大阪WTCビル55階建てに府が全面移転計画中断)では、震度3にも関わらずEVロープが絡まり閉じ込め事故が発生した。建物でも防火戸の歪み、室内被害(天井落下・仕上げ材剥離)も起こり、その復旧工事に1億円がかかると言われている。このような遠距離災害も今回の地震でその因果関係が鮮明になった。
以上のような中でユーザーの動向にも変化が出てきた。

従来人気の高かった東京湾岸超高層マンション購入にも高層難民化・買物難民化が懸念され人気が頭打ちになってきた。建物の耐震性にも注目が集まり免震マンションへの関心も高まった。
こうした背景を元に販売を延期していた大手デベロッパーは万全の地震対策を講じ、東京臨海部のタワーマンションの販売再稼働に踏み切った。主な例を挙げると野村不動産52階、住友不動産33階、東京建物33階は夫々、免震構造・制震構造化は勿論、非常用発電機・非常用電源と長周期地震振動センサー付きエレベーターを設置し、隣接防潮堤の高潮・津波に対応し、液状化発生時の外部配管更新対策も実施した。さらに災害防災倉庫と飲用水浄化装置まで完備した。

住居用ばかりではなく事業用オフィスも企業のBCP(業務継続計画)の重要性から、データの保存・物流網の見直し・指示系統の維持・社員の通勤確保を重点に置き始めた。
その結果、横浜駅地区では築浅ビルでも耐震性に不安がある物件から「みなとみらい地区の免震性のあるビル」への移転が見られ、その受け皿として注目を浴びている。

一般的には戸建て志向が強い地区でも、液状化は戸建ての方が被害大きいとの理由からマンション志向へと変化が見られる。従来人気の高かったディズニーランドの側の超人気地区である「浦安市舞浜3丁目」の戸建が全く売れなくなっている。

又、駅近・職場近の物件に人気が出てきた。首都圏直下型地震では、帰宅難民(都内448万人、首都圏650万人)が予想され、都の想定では「448万人、4日以内に帰宅」を目途に、食糧備蓄318万食を用意しているが対象者の約7割しかなく、1食分で底をつく状態である。
東日本大震災のような海溝型地震よりも内陸型地震(直下型)は地表近くで起こる為、震度は少なくとも被害が大きいといわれている。都の予想よりも被害は大きくなる可能性は高く、首都機能の途絶とともに「帰宅難民問題」に伴う食料備蓄・宿泊施設の確保は深刻さを増している。ライフラインの復旧は阪神淡路の例を取れば、神戸市の場合、電気7日、水道91日・ガス85日と都の基準を大幅に超えており、首都圏全体がパニックになる可能性が高い。

原発問題による計画停電の実施は、クリーン・安全と言われていた「オール電化」志向にブレーキをかけ、「地域防災の取組み」「防災拠点への行きやすさ」が選択の要素になった。
住宅計画も「住宅計画を変更 64%」、「計画を見合わせた、取りやめた 21%」となり、変更箇所は「実現時期を変えた40%」、「立地・住宅のタイプ変更 40%」と今回の震災の影響は大きい。
賃貸物件でも賃料の低水準が基調だが、多少高くとも安全性重視に移りつつあり、緊急時の安全性・対応力を重視したものに変わってきた。

これからの行政側の対応としては「ハザードマップの見直し」耐震規制の強化は当然だが、「構造計算の見直し」と「一定規模の集合住宅には最低限の食糧・飲料水備蓄」は所有者に義務付けるだろう。さらに形骸化している集合住宅の防災訓練もその実施内容がより厳格になるだろう。
神奈川県は海岸線が長く、それが魅力だったが、今回の津波被害を受けて不安が広まってきた。被災地で効果があったといわれた「津波避難ビル」は県内150ヶ所指定追加を計画しているが、残念ながら現状、茅ヶ崎市49、平塚市1、鎌倉市20、藤沢市50、小田原市7、横浜市0、川崎市0に過ぎない。津波避難ビルとは2005年内閣府指針(浸水想定2mの場合3階建以上、3m~4階建物)で言われたものだが、分譲マンションの場合、理事会決議が必要で所有者の承認が中々得られない点と、玄関のオートロック式がネックになっている。

今回の東日本大震災は、従来の価値観を否定するような契機になった。
不動産所有リスクも従来以上に無視できなくなってきたし、不動産に関わる我々にも大きな課題を与えられている。少子高齢化による市場動向の変化も以前から警告されていたが、それにキチンと対応している不動産会社はまだ少ない。地震によるリスクヘッジもまだできていない。活断層も上空から可視される範囲でしかハザードマップに反映されない。さらに原発周辺地区では、突然「警戒区域」に指定される危険性もある。確実に来る未来にいかに早く対応するかで企業の存続は決定してしまう。
パイはすでに限られている。リスクも明白だ。益々中小企業といえども生き残りをかけた生存競争は始まっている。

社長 三戸部 啓之