235号-2017.2.25

[ 2017.2.25. ]

235号-2017.2.25

昨年12月1日に2016年度宅建試験の合格発表があった。

今年の宅建合格ラインは35点で、2011年度36点以来の高い得点になった。合格率は前年度と同じ15.4%だった。最高齢合格者は77歳、最年少は16歳でともに男性だった。当社では3名が合格した。2名は1年未満の中途入社組で、もう1名は新卒の新入社員だった。新卒新入社員9名の内1名が合格したわけだ。

4月から11月まで2回の仮配属研修中だが、宅建の最低合格勉強時間500時間は6ヶ月間で平均すれば一日3時間弱である。平均通勤時間を120分としても車中と自宅で勉強時間の確保は可能である。今年の新入生は法学部出身者がいないという点も加味しても、高校一年生や高齢者でも合格する内容である。通常8000時間を要するといわれる最難関試験である司法試験に合格するというわけではない。
さらに問題なのは、合格者に営業職が誰もいないという事である。

当社では社員の宅建保有率は50%を超えている。つまり2人に一人が取得している。

しかし、こと営業職に限定すると取得率は38.4%だ。つまり無免許運転している社員が3人に2人いることになる。勿論営業からは「宅建資格と営業実績は連動していないし、わずかの資格手当では魅力がない!」という自己弁護に近い意見が出てくる。勿論、営業職は時間が顧客の動きに左右され、内勤職のように自分で時間をコントロールする事ができない。それから言えば内勤職こそ未取得者はより問題という事もできる。従来のような、「情報を右から左に動かすだけでビジネスになる」という事もなくなって来つつある。
情報の非対称性というが、ネット時代ではその妙味もなくなり、情報の有無だけでは難しい。

情報自体に価値はあるが、これをカスタマイズして提供する事が求められるのだ。そこには専門知識に裏付けられた確実な知識がいる。

よく社内で「ジャパネットたかた」の例を持ち出すが、なぜアナログ的な説明方法で、頭打ちといわれた家電販売が1000億円企業になったかを考えれば理解できる。しかも、無店舗販売の最たるものだ。メーカーサイドでの説明ではなくユーザー目線での説明が必要なのだ! 技術的説明より日常生活での便利さ、楽さ、使い勝手の良さなのだ! それも普段使う話し言葉で説明することがポイントだ。これは意外と難しい。難しいことができたから、かの会社は1000億円企業になったともいえる。他は往々にしてメーカーのパンフレットの説明に終始している。さらに自ら使用して使い勝手の利点を説明しているのがユーザーの生活感に合致するのだ。「買いたい」「早く使いたい」という動機づけになっている。他人の言葉ではなく「自分の言葉で話す」という事が必要なのだ。

宅建未取得者は「知らない事を聞かれたら困る」から質問を敢えて拒絶するような話し方を無意識でしている。これでは成果も出ないし、そもそも学ぼうとする気も起きない。知に対する渇望感がないから、現場を見てもプロとしての見方ができていない。知識がないから一面的で「なぜ?」という疑問が起きない。常に現状追認行為だけだから、顧客に対する説明も一面的に終始する。顧客も説明を受けても印象が薄いし興味が起こらない。ありきたりの質問しか出てこない。これが後日CS件数の増加となって社内的な不作為コストに降りかかる。

我々不動産業には、様々な資格がある。宅建取引士もその一つだが、ファイナンシャルプランナー、相続支援コンサルタント、賃貸不動産経営管理士、不動産コンサルティングマスター、ビジネス法務と多岐にわたる。これらの知識の上に初めて顧客にコンサルや提案ができるはずなのだ。

公的な資格がなくても不動産ビジネスは可能だ。無免許運転でも自動車は運転できるし、そのうまさも保証するものではない。その辺の理屈が資格取得に身が入らないことかもしれない。

不動産業界にいる限り、どんな理屈をつけても宅建取得は避けられない。業法上、重要事項説明義務があり宅建資格者しかそれをできないからだ。その資格はあくまでも数ある資格の入り口でしかないという点も忘れてはならない。

保守的な不動産業界でも規制緩和が騒がれている。IT重説という方法の採用がその一つである。今まで対面でしかも宅建取引士が行うことになっていたが、対面部分をネットで省略するという試みだ。
賃貸における重説内容も再考されるだろう。不動産売買にあるような内容で賃貸には不要な内容も多いし、賃貸特有な内容も欠落しているからだ。
突破口は賃貸仲介からで、米国のようにセールスパーソンの資格がないと業務自体に関与ができず、それが日本では宅建取引士になるだろう。
何年か後には、資格士以外は失職する可能性がある。

各種規制の撤廃で、成熟産業といわれている分野でも新たなサービスが続々と生まれた。顧客満足を重視した方向に、商品やサービスが見直されているわけである。ところが、このように新たな動きが始まっているのに、それに気付かないリーダー、社員が多い。

そもそも、規制は何の為にあったのか? 既存の事業者の利益を守る為である。
そこでは、消費者の利益は二の次、三の次であり、既に構築された枠組みの中だけで仕事すれば結果を出すことができた。その時代の意識を引きずり、頭の中の規制の枠が新たな状況への対応を邪魔しているのだ。「そんなことはウチの仕事じゃない」「そこまでやる必要がない」こんな言い訳を並べて、従来の枠組みの中に逃げ込んでしまう。

「無理なことは無理だろう」という反論が聞こえてきそうだが、餅屋に車を売れというお客様がいるだろうか?「無理なこと」が本当に無理なことなのかを、もう一度考え直してみる必要がある。

顧客の立場から見直してみると、決して無理ではない場合が多い。「できない」「やれない」「したくない」といった意識の規制を、この際、きれいサッパリ捨ててしまう事が必要だ。限られた市場を奪い合う時代に、自分達の都合を振りかざして生き残ることはできない。「できません」と断る前に、どうすれば相手の要求に近づけるかを考える事だ。

無理な要求を嫌えば顧客が逃げていく。それが淘汰の時代の厳しい現実だ!とリーダーや社員は後輩社員に知らしめるべきだ。無理と考えていたサービスが提供できるようになることは、すなわち、他社との差別化である。生き残る為には、顧客の無理を実現する為に努力するべきだ。

無理な注文が来たら、新しいビジネスチャンス到来と思え!

企業が顧客の要求を規制することはできない。供給側の論理を捨てて、むしろ顧客のわがままに積極的に挑戦せよ! これが企業永続の秘訣だ。社員も価値ある社員といわれる。

不動産業界はサービス業といわれて久しい。だがそれを日常業務に落として社員教育している経営者は少ない。我々の財産は「知識と経験」しかない。なぜこれを自分の武器にしないのか?

ホンダ創業者・本田宗一郎氏が社内報で「我社のモットー」として宣言した。「3つの喜び・作って喜び、売って喜び、駆って喜ぶ」これは、車にかかわる技術者や販売店、購入者、それぞれの喜びを同時に実現することを意味する。近江商人の「三方良し」にもつながるビジネスの要諦だ。

目的のない勉強は厳しい、だから資格を取得せよ!と言っている。その知識で顧客に感謝されたら今以上に充実感が得られる事は間違いがない! 顧客の大きな財産を預かるなら尚更だ!

社長  三戸部 啓之