267号-2019.10.25

[ 2019.10.1. ]

267号-2019.10.25

相変わらず、家賃滞納者には頭を抱える。当社でも専従部署をつくり対応しているが、それでも毎月増加傾向にある。他の不動産管理会社からの管理替えが増えているからだが、その管理替えの主な理由は、常習滞納者を放置に近い状態にし、不動産会社が有効な督促回収ができていないからだ。まして、売買仲介を合わせてしている殆どの不動産会社は「建前は取り組んでいる」と言ってもバカらしくてやってられないレベルだろう。当社が管理を引き継いだ時点で賃料の3~6ケ月の滞納が発生している、訪問回数は6~10回、電話や督促状の送付を考えれば管理料では人件費どころか交通費も出ない。

 

街場の不動産会社は将来数百万の売買仲介料を得られるのを期待して、大家との関係を維持したいから、無料奉仕に近いサービスとしてやっているに過ぎない。その関係も今や期待できなくなっており、大手仲介業者に流れることが多いから、益々手を抜きたくなるという図式になるのだろう。
この家賃滞納者には様々な滞納理由があり一概に債務不履行として法的手段をとるのは得策ではない。

 

最近の多い事例としては「離婚により夫人と子供が置いて行かれた為、収入から家賃を支払うことが難しいケース」「高齢者夫妻の一方が亡くなり通常の年金だけでは家賃を支払えないケース」「夫の会社が倒産して就職先がないケース」等がある。そのほとんどが家賃の支払いどころか生活も窮乏している事が多く、引っ越し先を探すこともその移転費用もない場合がある。

現状の住居に住まい続ける事は物理的に不可能なので、家賃を支払える物件に移転するか、きちんと収入が入る勤め先に就職するほかない。その猶予期日と本人の支払い意思があれば打開策も見つけられるが、万策尽きた場合は訴訟手続きに入るしかない。

往々にしてこの辺の事情を斟酌しないで「払え!払え!」コールだけでは一向に解決しない。入居者の目線に沿った「相談相手にならないと相手は胸襟を開いてくれない」のだ。相手の信頼を得なければ事態は進展しない。先日もある営業の滞納督促状況を確認したところ、3ケ月に訪問3回それも不在2回、面談した際の相手の反応は「来月払います!それまで待ってください!」だった。それで「わかりました!来月きちんと払ってくださいね!」で終わっていた。しかもその時の支払い念書等もなく口頭約束だけだ。
その後、電話で10回コールしてつながったのは2回だ、それも言葉でのやり取りで終わっていた。
それを放置した上司も上司だが、当社の教育体制の見直しと上司の管理手法の点検が急務となった。
折衝の基本が全くできていないのだ。滞納者に対する訴訟手続きの基本を全く理解していないのだ。
滞納者に対する基本的姿勢は訴訟手続きを視野に入れた督促が必要となる。立証責任を頭に入れなければいけない。それぞれの動作に証拠を残すのだ。上司も担当者もこれができていなかった。管理会社社員としての当たり前の基本動作ができていなかったのだ。

最近は賃料保証会社経由やカード会社経由なので実践に乏しい社員が多くなっている事も理由の一つに考えられる。確かに、常習滞納者には毎月同じことを言わなくてはならないし、面談してもあからさまに嫌な顔をされ、督促だとわかるとドアを開けない入居者もいるし、子供に対応させ居留守を使う親もいる。このような入居者と付き合わなければならない担当者の精神的負担は想像ができる。最近ではこのような汚れ仕事を敬遠する風潮も拍車をかけている事が、担当者のモチベーションを下げている。社会はきれいごとでは済まないことが多いが、誰かが手を汚さなければならない。何時も社員には不動産管理会社として「差別化できる要因を自分で作れ!」と言っている。

滞納回収のプロになれば、それだけで差別要因になり自己価値を高めることもできる。システムで解決できるものと、最後は人間力で解決しなければならない業務もある。それが会社にも顧客にも売りになるのだ。滞納者の立場に立ってベストな解決方法を探るのは担当者との信頼関係を築く必要がある。通り一片の折衝ではなかなか不信の壁を超えられない。まさに知識と人間力が試されるのだ。優秀な営業はこの辺の動きが秀逸だ。誰がやっても行き詰っていた不良入居者を見事に期限までに退去させた例が最近ある。

それは、その入居者の立場に立って最適な方法を考え試行錯誤しながら実行したのだ。教科書に書いてある模範的手法だが、それが女性というだけで、誰も真摯に学ぼうとしなかった。残念なことだ。
さらに貸主は勿論、その入居者からはお礼まで言われたという快挙だ。社員の構成には何処でも「2割の優秀な社員、6割の普通の社員、残り2割のダメ社員」がいる。大多数を占める6割の普通の社員をどうレベルアップするかで会社の将来と業績が決まる。問題なのはこの普通社員が意外と社内評論家が多いという事なのだ。

そこで今年度から以前よりあった社長塾に加え、6ケ月コースで課長塾、主任塾を開始した。中堅、リーダーをまず意識改革しようというわけだ。勿論一回の研修で全面的に変わることはそもそも期待していないが、これが契機となり、自己を振り返ればいいと考えている。特に滞納やクレーム滞納についての担当社員とその上司は尚更だ。扱いによっては「被害者意識満載になるし折衝の過程で精神的落ち込みもひどい」からだ。

ところで「民需圧迫」と言われた公営住宅では滞納問題はどうなっているか気になるところである。
2015年度末の時点で、公営住宅の家賃を1カ月以上滞納しているのは20万7232世帯で、滞納額は計504億2218万円・・・総務省の調査でこんな事実が明らかになった。
滞納期間は1カ月以上3カ月未満が42.0%、12カ月以上が28.4%を占めていた。
公営住宅は、地方自治体が低所得者向けに貸し出しており、全国で187万9374世帯が入居している。地方自治体は家賃を滞納している家庭に対し、電話による納付指導、督促状の送付、訪問しての指導、保証人への通知などを行っている。
しかし調査では、一部の地方自治体では「家賃が納付されていると考え、滞納理由を把握しなかった」「長期間の滞納があるのに、その理由を記録しなかった」といった状態がまん延していたことも判明。中には約10年間気付かずに滞納を放置していた例もあったという。こうした状況を踏まえ、総務省は国土交通省と厚生労働省に対して
(1)地方自治体に家賃滞納者の状況を把握させ、適切な対応を促す。
(2)入居者の状況によっては、生活保護担当部局に代理納付させるなどを行うよう勧告した。

つまり、滞納者には目立った督促業務はしていなかったことになる。住宅困窮者の住宅確保という昭和40年代の政策踏襲が平成の時代になっても継続していたことが原因だ。最終的な損失は納税者が負担する。一部では管理を民間代行会社に委託しているケースもあるようだが、高級官僚の天下り先の確保という内部事情もあるのか、住宅供給の負の側面を糊塗した組織も弊害が出てきた。


また、公社住宅では空室募集においても「礼金なし、原状回復工事なし、更新料なし」は当たり前だし、様々な優遇空室募集条件が出ており、今や民間賃貸住宅の最大の競合先が公社住宅となっているのが現状である。最近の空室状況からは所得制限も大幅に緩和され、社宅もOKとなった為、当社の社宅斡旋でも公社住宅の該当物件がなければ民間賃貸住宅をあたるという事が起きている。


我々からすれば国民の血税を使ってそこまでやるかというレベルで、公社住宅の制度的使命は既に終わりゾンビ企業として存続しているに過ぎない。財政事情が逼迫している昨今、早急に民間へ移管すべきだし、官と民との住み分けが必要だ。          

                             社長   三戸部 啓之