[ 2020.5.1. ]
274号-2020.5.25
新型コロナ肺炎が猛威を振るいだした。WHOは「パンデミック」と表現したが、遅きに失した感がある。WHOの警告が遅れたのは、慎重を期したという意見もあるが、テドロス事務局長がエチオピア出身で、多大な援助を受けている中国に遠慮したのではと憶測が流れている。発生したのは2019年11月で、警告を発したのは2020年3月11日なので遅すぎたとの指摘があるからだ。世界中で罹病者約200万人、死亡者約15万人に迫ろうと3月15日を境にすさまじい勢いで増え続けている。
欧州をはじめ各国は国境を閉鎖し国内外の移動を禁じた。
これから問題なのは医療後進地域と言われるアフリカ諸国の蔓延だ。感染経路も不明だし、医療施設の絶対数が不足している。欧州をはじめ各地で感染者が異常に増加しており、一都市から国全体へとロックダウンになる処もある。爆発的蔓延は、マスクの習慣のある日本となかった欧米、建築様式の違いやハグの習慣の有無もある。貧富の格差があり、満足に医療を受けられない国は先進国でも感染者は増加している。
新型コロナウィルスは症状が軽く、感染しても風邪のような症状だけで治る人も多いので、出歩き、知らないうちに人に感染させてしまう。日本国内でも緊急事態宣言が出され、東京都をはじめ6府県で「休業要請」「不要不急の外出自粛」が始まった。密接、密集、密閉という「3密」を避け感染拡大を防ごうというわけだ。オーバーシュートと言われる爆発的な患者急増は医療崩壊を起こすので、ワクチンができるまで如何に感染を遅らせるかが行政側の課題になっている。
ここでよく引き合いに出されるのは、1918年に発生した新型インフルエンザ(通称スペイン風邪)の流行だ。世界で5億人が罹患し死者は一億人と推定されている。
日本での死者は約45万人に達し、政府や医学界は病原菌が細菌だとして、北里医学研究所の予防ワクチンの注射を進めたが効果はなかった。当時の医学機器水準では、スペイン風邪の病原体であるH1N1型ウイルスは、当時の光学顕微鏡で見ることが出来なかったからだ。それでも、政府や自治体が手をこまねいていたわけではない。大正8年(1919年)1月、内務省衛生局は一般向けに「流行性感冒予防心得」を出し、一般民衆にスペイン風邪への対処を大々的に呼びかけている。マスクの使用、うがいや手洗いの励行、人混みを避けるといった対応を繰り返し促し、小中学校は感染者が出れば休校にした。しかし満員電車の乗客には車内での感染の危険性が非常に高かったにもかかわらず全く規制はしなかったらしい。政府側の根本的対処方法が確立されていないために起こった措置だった。これらから、スペイン風邪の原因がウイルスであることすら掴めなかった当時の人々の、未知なる伝染病への対処は、現代の新型コロナ禍における一般的な対処・予防法と驚くほど酷似している。人類がウイルスを観測できる電子顕微鏡を開発したのは1930年代。実際にこのスペイン風邪のウイルスを分離することに成功したのは、流行が終わって15年が過ぎた1935年だった。つまり当時の人類や日本政府は、スペイン風邪の原因を特定する技術を持たなかった。当時の研究者や医師らは、このパンデミックの原因を「細菌」だと考えていたが、実際には見たことも経験したこともないウイルスであったからだ。人類は、まだ、未知のウイルスに対し全くの無力だったといえる。終息は1920年12月だから2年もかかった。
現在、当時とは比較にならないくらい近代医学は進歩しているので、早晩ワクチンは開発され、終息時期は早まると思われるが、経済に与えるダメージは当時とは比較にならないくらい大きい。売り上げ低迷による倒産があちこちで囁かれている。年内にはアジアの航空会社は殆ど経営破綻すると予測されているし、外出自主規制が長期化すると「巣ごもり消費」と言われる現象が一般的になり、人の移動を前提とした業種の打撃は大きい。
不動産業界でも明暗が分かれている。貸会議室業のTKPは貸会議室257拠点を緊急避難一時使用サテライトオフィスとして提供。パソナは「リスクヘッジオフィス提供サービス」として両社とも敷金、礼金、光熱費、ネット料不要の優遇措置を絶好のタイミングで打ち出した。政府が7割の出勤を要請したことで在宅勤務に伴うリモートワーク関連企業は売り上げが倍増している。一方、新型コロナウィルスの影響で、目立って打撃を受けているのはマンスリー事業だ。大手のリブマックス(東京)では4~6月分の利用予約のキャンセルが相次ぎ、額にして一億円弱に及んでいる。理由は感染対策の一環で新入社員研修や出張を中止する企業が増えているためと、仕入れた物件に設置する新品の一部の家電(冷蔵庫と洗濯乾燥機)の入荷が追い付かないという事情も関係している。民泊もインバウンドが激減し、打撃が大きく転用も視野に入れている運営会社も多い。それと連動するようなスパムメールが飛び回り「食料品、日常雑貨」の買い占めに走る人々が出てきた。益々社会的な負の連鎖が増幅し、人々が動揺する。経済の好循環が止まり、金融が停滞する。企業の存続問題もそうだが、そこに働く人々の収入減がクローズアップしてくる。国会でも賃料の支払いを猶予する「家賃支払いモラトリアム法案」の動きも出てきた。
政府も企業の緊急無担保融資、個人の所得補償、失業者を前提とした「住宅確保給付金制度」と様々な政策を打ち出しているがいずれも限定的だ。信用収縮を伴う金融危機にまで波及すると「リーマンショック」の比どころではない世界的な経済危機になる恐れもある。あの世界的優良企業であるトヨタが金融機関に「一兆円の緊急融資」を持ち出したこと自体、カウントダウンが始まっているとみて差し支えない。
ある親しくしているフリーランスのダンス教師とイベント業界の人は、3月4月の収入は全くないと言っていた。つまり、今後の推移如何では我々の賃貸住宅管理業界でも賃料滞納者が続出することになる。
今月の滞納者の中でも早くも、滞納の原因として新型コロナウィルスによる収入減を理由にする入居者が出てきた。テナントからの減額要望も強い。売上が70%ダウンと目も当てられないところもある。長期化すると更なる深刻な事態に陥る恐れがある。これからは滞納者が増えれば賃料保証会社、人の動きがなくなれば仲介会社の経営危機や倒産も現実味を帯びてきた。それらを踏まえると、今までの当社の入居審査ガイドラインの項目である「前年度収入」はあまり参考にならないことになる。今年は全業種で、勤務先も形式的審査だけでなく重要な判断要素になるだろう。
新型コロナウィルスが蔓延し感染者が増えてくると、管理している不動産物件に入居している入居者にも感染者が発生する恐れもある。そこで問題を弁護士の意見をもとに予想整理すると、以下のようになった。
- 社員の感染防止はもちろん「他室の入居者に知らせるべきか」という問題が起こるが、感染者のプライバシーに配慮し通知するべきではないとした。
- 「オーナーに知らせるべきか」という問題は受託契約の報告義務対象とする。
- 「他の入居者やオーナーから感染入居者を退去させろ」と言われたら法的な解除理由にならないとして説明する。
- 「感染入居者の退去後の新入居者への告知」は適切に物件消毒すれば告知義務は不要とする。
- 「入居者から管理物件入り口へのアルコール消毒液設置希望には」対応は義務ではないが感染拡大すれば責任問題になる為実施する。
- 「コロナウィルスの影響でメーカーから一部の住宅設備が納入できない状況で、交換が必要な場合でも一部減損による家賃減額の免責期間が適用できるのか?」は原則家賃減額に応じる必要がある。特約で「やむを得ない事由により~賃料が減額されない」という条項を入れても消費者契約法により無効になる可能性があるという見解なので貸主のご理解を得る。さらに当社の社員が感染した場合に営業拠点封鎖も踏まえたうえでの対策も必要になる。
健康管理、労務管理、営業手法の見直し、事業継続等々、当社もきちんとした対応ができるかが、今後の管理会社存続上での試金石となる心つもりで未曽有の危機を乗り切りたい。
社長 三戸部 啓之