令和6年4月改正「障害者差別解消法」 求められる二つの規定について
アーバンレポート 第304号2024年10月発行
令和6年4月に「障害者差別解消法」が改正されたことはご存じでしょうか。この法律は、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進することを目的として、平成28年4月に施行されました。
同法は「不当な差別的取扱いの禁止」、「合理的配慮の提供」という二つの規定を設けており、本改正でこれまで行政機関のみ義務化されていた「合理的配慮の提供」が民間事業者にも義務付けられることになりました。私共、宅建業者においてはどのような事例があるのか見ていきたいと思います。
- ①不当な差別的取扱いの禁止
→障害のある人に対して、正当な理由なく、障害を理由として差別することを禁止する。
例えば「障害がある」という理由だけでサービスの提供を拒否したり、制限したりするなど、障害のない人と異なる取扱いをすることにより障害のある人を不利に扱うことが無いよう努めなければなりません。また、もし何かあったらといった漠然としたリスクだけで断ることや、前例がないから断ることは正当な理由になりません。正当な理由に相当するかどうかは、個別の事案ごとに具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要とされます。
※宅建業者における不当な差別的取扱いの具体例
【国土交通省所管事業における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針
抜粋】
■物件広告に「障害者お断り」として入居者募集を行う
■障害者に対して、「当社は障害者向け物件は取り扱っていない」として話も聞かずに門前払いする
■賃貸物件への入居を希望する障害者に対して、あることを理由に、賃貸人や家賃債務保証会社への交渉等、必要な調整を行うことなく仲介を断る
■障害者に対して、「火災を起こす恐れがある」等の懸念を理由に仲介を断る
■一人暮らしを希望する障害者に対して、一方的に一人暮らしは無理であると判断して仲介を断る
■車椅子で物件の内覧を希望する障害者に対して、車椅子での入室が可能かどうか等、賃貸人との調整を行わずに内覧を断る
■障害者に対し、障害を理由とした誓約書の提出を求める
■障害者が介助者を伴って窓口に行った際に、障害者本人の意思を全く確認せず介助者のみに対応を求める
■障害があることのみを理由として、一律に、障害者に対して必要な説明を省略する、または説明を行わない
■障害があることやその特性による事由を理由として、契約の締結等の際に必要以上の立会者の同席を求める
- ②合理的配慮の提供
→障害のある人から何らかの配慮を求める意思表示があった場合には、負担になりすぎない範囲で対応すること。
日常生活、社会生活で提供されている設備、サービスは障害のない人には簡単に利用できても、障害のある人には利用が難しく、活動が制限されてしまう場合がございます。その為、設備、サービスを提供している行政機関、事業者は活動を制限するバリアを取り除く必要がございます。よく目にするのは、車椅子の方が電車を利用する際、駅員がスロープを掛けている場面です。当たり前の光景ですが、合理的配慮の提供が行われております。合理的配慮の提供にあたっては、必要な対応について相手方と建設的に話し合い相互に理解を深め、対応案を検討することが重要です。
※宅建業者における合理的配慮の提供の具体例
【国土交通省所管事業における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針 抜粋】
■障害者が物件を探す際に、障害者や介助者等からの意思の表明に応じて、最寄り駅から物件までの道のりを一緒に歩いて確認したり、手を添えて丁寧に案内する
■車椅子を使用する障害者が住宅を購入する際に、住宅購入者の費用負担で生活しやすいようリフォームを希望する場合において、宅建業者が住宅のリフォーム等に関わるときは、売主等に顧客の希望を適切に伝える等必要な調整を行う
■障害者や介助者等からの意思の表明に応じて、バリアフリー物件等、障害者が不便と感じている部分に対応している物件があるかどうかを確認する
■障害者や介助者等からの意思の表明に応じて、物件のバリアフリー対応状況が分かるよう、写真を提供する
■障害者の居住ニーズを踏まえ、バリアフリー化された物件等への入居が円滑になされるよう、住宅確保要配慮者居住支援協議会の活動等に協力し、国の助成制度等を活用して適切に改修された住戸等の紹介を行う
■物件案内の際に、障害者や介助者等からの意思の表明に応じて、移動が困難な障害者に対し、車で送迎する
■物件案内時の際に、障害者や介助者等からの意思の表明に応じて、車椅子を押して案内をする
■障害者や介助者等からの意思の表明に応じて、契約内容等に係る簡易な要約メモを作成したり、家賃以外の費用が存在することを分かりやすく提示したりする等、契約書等に加えて、相手に合わせた書面等を用いて説明する
■障害者や介助者等からの意思の表明に応じて、ゆっくり話す、手書き文字、筆談を行う、分かりやすい表現に置き換える、IT 機器の活用等、相手に合わせた方法での会話を行う
■書類の内容や取引の性質等に照らして特段の問題が無いと認められる場合に、自筆が困難な障害者からの要望を受けて、本人の意思確認を適切に実施した上で、代筆対応する
障害者差別解消法の理念を理解するのは簡単ですが、何が不当な差別的取扱いに該当するのか、どのような合理的配慮の提供を行えばよいか、速やかに判断するのは難しいと思います。私の日常業務においても様々な状況が生じるので、常日頃から準備し、誰でも分け隔てなく接客できるよう心掛けて参ります。
~ 参考 ~
国土交通省所管事業における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/barrierfree/sosei_barrierfree_tk_000063.html
内閣府HP 障害を理由とする差別の解消の推進
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai.html
賃貸営業部 法人営業課 鳴島 拓人