第305号

「改めて考える、バリアフリーとは」 

アーバンレポート 第305号2024年11月発行

 1年程前になりますが、株式会社ミライロが運営している《ユニバーサルマナー検定》という講習を受講しました。今回はそこで学んだことをもとに「バリアフリー」について、改めて考えてみたいと思います。

〇バリアフリーの定義と現状
 まず、「バリアフリー」という言葉。かなり浸透してきたと思いますが、〝段差の解消″や〝スロープの設置″をイメージすることが多いのではないでしょうか。
そもそもバリアフリーとは、高齢者や障害のある人が社会生活を送るうえで、障壁(バリア)となるものを取り除く(フリー)という考え方です。そこにはもちろん〝段差の解消″も入るのですが、さて、世の中にあるすべての段差がなくなりすべてがスロープになったらどうなるでしょうか。ここで想像してみていただきたいのは、高齢者や障害のある人にもいろいろな方がいて、中には「段差」が重要な方もいるということです。例えば視覚障害のある方の中には、段差を踏むことで部屋の仕切りを感じていたり、角度や長さが想像しにくいスロープは使わず、あえて階段を利用する方もいます。また、歩行に障害があり装具で足首を固定されている方にとっては、角度がついたスロープは歩きにくい場合もあるのです。
 では今度は、視覚障害のある方のためにと店舗に点字ブロックを導入するとします。点字ブロックの利用者にはとてもありがたいかもしれませんが、狭い場所の点字ブロックは歩行に不安のある方や車いす利用の方にとっては通行の障壁になります。また、小さなお子さんやヒールの高い靴を履く人にとっても、点字ブロックは凹凸があってとても歩きにくいものです。
一つに偏ると別のところで障壁が生まれてしまいますし、〝段差の解消″そのものや単純な配慮はバリアフリーにはならないのです。
また、これまで行われてきたバリアフリー化の中には、階段に取り付けられた車いす昇降機など、利用することで注目を集めてしまい、かえって障害を強調することになってしまったり、一般の人と全く違う移動経路への誘導で障害を隠すかたちになってしまうという側面もあります。特別扱いはお互いに気持ちのいいものではありません。

〇ユニバーサルデザインについて

 そこでもうひとつ、「ユニバーサルデザイン」についても触れたいと思います。「ユニバーサルデザイン」は、年齢や性別、国籍、障害の有無などにかかわらず、すべての人のためにわかりやすく使いやすい設計のことを指します。バリアを解消するのではなく、最初からバリアを生まないようにするという考え方で、すでに私たちの身の回りにはユニバーサルデザインがたくさん取り入れられています。例えば、今はほとんどのシャンプーボトルの上に突起がついていてリンスと区別できるようになっています。これは、視覚障害の方のみならず一般の方からも、間違えることがないと好評になりました。今では詰替え用も一部の蓋が区別できるようになっているそうです。それから最近ではよく見かける大きな四角い形の照明スイッチも、指の力や利き手に関係なく、さらには手でなくても押しやすいようデザインされています。

 障害者や高齢者を特別扱いするのではなく、誰もが違和感を持たず、一緒に利用できる環境になるということですね。

〇これから取り組むべきバリアフリーとは

 いろいろと取り上げてみましたが、多様な方々のことを想定し、建物や設備を改修してバリアフリーに取り組んでいくことは、とても素晴らしいことです。ただ、物理的な障壁を取り除くだけでは本当のバリアフリーにはなっていきません。課題や良い点を見出して、利用するいろいろな方のことを多方面から考えてこそ、バリアフリー化ができていくものと思います。そして大事なのは〝心のバリアフリー″なのではないでしょうか。
 その始まりとしてはまず、社会全体が「多数を占める人」にとって使いやすく作られているということを理解することです。日本人の約10%といわれる左利きの方は、時々使いにくいと感じるものが日常にアレコレあると思います。高齢者や障害のある方にとってもそれぞれ種類や程度に違いはあれど感じる気持ちは同じなのです。その「使いにくい」と感じることについて、互いにコミュニケーションをとって伝えあい理解すること、それについて一緒に考えていくことが、合理的配慮ということなのだと思います。

先日、分譲賃貸マンションのご案内に行った際、室内の廊下に見たことのないスピーカーと、インターフォンの横に大きなランプがついていました。オーナーのご家族に聴覚障害のある方がいたため、来客を知らせるための補助設備だったのですが、見たのは初めてでした。お恥ずかしながら耳が不自由=手話・筆談くらいしか思い浮かばなかったので、実際の生活の工夫を知ることができたのはとても貴重な経験でした。障害について知る機会は自ら積極的に作っていかないとなかなかないですが、まず知ることが理解へのスタートになると思います。

 私が所属している法人営業課では企業様からのご依頼で借り上げ社宅のご紹介を行っていますが、近年色々なご事情をかかえる方、ご家族に配慮の必要な方がいるというお話もよく聞くようになったと感じています。隠すことなく配慮を求めることができる世の中になってきたのだと思います。私たちはそれぞれのニーズに合わせたお部屋のご提案をすると同時に、ご入居いただくにあたり工夫することについてオーナー様へご相談をすることもあるかもしれません。お互いに理解しあえる、気持ちよい住環境の提供ができるよう、仲介として正しい知識とマナーを身に着けてお客様と接していければと思っています。
 人は誰もが年齢を重ねて不自由なことが出てくるものです。決して他人事ではないということがわかっていけたら、義務化などと定めずとも自然と皆が生きやすい世の中になっていくのではないかと思います。まずは街中や身近なものの工夫を見つけてみるなど、バリアフリーについて考えるきっかけになれば幸いです。

賃貸営業部 法人営業課 武藤 美帆

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